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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第22章 少女の影を探して



「違う? でもあたしの事を知ってる。牧師の仲間なんでしょ。何が望み? あたしの体? 言っとくけど、あたし高いわよ」

ドクドクと早まる鼓動を気のせいだと思えるように、リアはわざと冗談めいてそんな言葉を口にした。

「体、ね。まぁそうだね。君の体には用がある」

返ってきた男の言葉は、リアの背筋に冷たいものを走らせた。
リアの思う「体」と男の言う「体」は別の意味だと悟ったからだ。
頭の中の警報はけたたましく鳴り響いているにもかかわらず、リアは男に背を向けて駆け出すことが出来なかった。

それは頭のどこかで、この男から逃げる術がないと気付いていたからかもしれない。

「今までの“記録”を確認したいからね」

男の目が糸のように細くなり、その笑みを差し向けられたリアはぞくりと背筋が粟立つのを感じた。

男の意図がつかめない。
一体何を考えているのか、自分とどういう関係なのか。
分からないということはより一層恐怖を掻き立てる。

一刻も早くこの場から逃げなければならないと、頭では分かっているはずなのに。
リアの足は地面とくっついたまま離れそうになかった。

この場で殺されることはないだろう。
もし相手がそのつもりなら、言葉を交わすこともなく殺されているだろうから。
けれど男の言う“記録”を確認し終わったら?
用済みになったら、男がリアを生かしておく保障はない。

冷や汗がリアの額に浮かぶ。

嫌だ。死にたくない。
怖い。どうしたらいいの。

泣きそうになるのを必死にこらえながら、リアは男が近づいてくるのをただじっとその場で待っているしか出来なかった。

「大丈夫だよ、殺しはしないさ」

男の薄い唇がそう呟くのを、リアはじっと見つめていた。


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