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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第22章 少女の影を探して



路地裏をひとりの少女があたりを見回しながら進んでいく。
ふわりと甘い花の香りをさせて少女は時折後ろを振り返った。
少女があたりを警戒するのも無理はない。
なにもここHLに限った話ではないが、大通りからそれて一本路地裏に入り込んでしまえば、この可憐な少女が瞬く間に悪人の餌食になってしまう可能性はぐっと高くなる。

しかし彼女が案じているのはそういった類とはまた別のものだった。

(──何の気配もしないけど、何かに見られているような気がする)

どこかから自分を見つめる視線があるような気がして少女はならなかった。
しかしいくらあたりを確認しても何も、誰もいない。

気のせいかと思い直し、少女──リアは歩みを進めた。
隠れ家から一歩外へ出れば、何も誰も信用できない。
外出するたびに気を張りつめなければならない。
きっとそのせいで過敏になっているに違いないと思いながら隠れ家へ向かう。

隠れ家まであと数分のところだった。
リアの目の前に、見知らぬ男が立ちふさがった。

「……」

無言で立っている男に、リアの第六感が警報を鳴らし始める。こういった手合いは刺激をしないに限る、とリアの経験則が告げていた。
歩みを止めてはいけない、けれどあからさまに男を避けるようなそぶりを見せるのも危険。
瞬間的にそう判断したリアは、家に忘れ物を取りに帰る風を装ってくるりと男に背を向けて元来た道を歩き始めた。

「久しぶりだね」

リアが数歩進むと、男が呟いた。
男の声に、リアは聞き覚えは無かった。
そうやって誰彼構わず声をかけて絡んでくる類の人間かもしれない。
リアは聞こえなかったふりをして、歩くスピードを速めた。

「私を忘れてしまったのかい? ──No.539」

その言葉にリアはハッとした。
思わず自分の首元に刻まれた忌まわしき刺青に手を伸ばしていた。

「創造主を忘れてしまうとは……しかしまぁそれだけ実験が上手くいっているという事でもあるけれど」

創造主?実験?
この男は何を言っているのだろうか。
リアに心当たりはなかったが、向こうはリアの事をよく知っているようだ。

「教会の、人ね」

後ずさって男から距離をとるものの、男はじりじりとリアににじり寄ってくる。
ニヤリと笑みを浮かべた男は、少し違うな、とだけ呟いた。
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