第21章 それは甘くかぐわしい香り
焦点の合わない目でクラウスを見上げている。
「ザップ、君はここに来る前、誰かと一緒だったかね?」
「うぁー? あー…はい……」
「しっかりしたまえザップ」
「……あんだけ殴っておいて、その言い草はねぇーっすよぉ」
意識がハッキリしてきたのか、頭を抑えながらもザップの受け答えが明瞭になってきた。
ここぞとばかりにクラウスが畳み込むようにザップに問いかける。
「君は、その一緒にいた人物と……」
言いかけてクラウスが一瞬ためらったように言葉を詰まらせた。
見るからに言葉に困った顔をしている。
一体ザップに何を尋ねようとしているのか。
「……その、む、睦事のような事をしたかね?」
そのクラウスの言葉にポカンとした顔をしたのは、ザップだけじゃなく僕もだった。
ただザップはクラウスが口にした言葉の意味を理解出来ていないだけだったようだが。
「むつごと、って何スか???」
「っ!! それは、その……」
聞き返されちゃ辛いよな、クラウス。
君にしたら精一杯上品な言葉を選んで、勇気を出して口にしたってのにな。
「──ベッドでイチャイチャしたか、って聞いてるんだよ」
「へぇ…?……は、はぁぁ?!? な、なんなんすか、何でそんな事聞くんスか旦那……」
ザップがこの世の終わりみたいな顔で震えながらクラウスを見る。
プライベートに干渉する事はほとんど無いし、ましてや性的な話をする事なんてないクラウスが、個人の性生活について言及したとなれば、ザップでなくとも驚く。
僕だって、内心どういう事か混乱しまくっている。
「どうなのかね、ザップ」
「はぁ……まぁここに来る前にリアーナとちょっと……」
「そのリアーナという女性と知り合ったのは最近の話かね」
「へ? そうっすけど……」
「その女性は、今どこに」
「分からねぇっす。いつも向こうから来るんで」
「連絡先は?」
「知りません」
素性の知れない相手とよくベッドを共にするものだ。
ザップの欲の強さに呆れつつも、何故クラウスがそこまで“リアーナ”に固執するのか考えていたところに、クラウスの視線が僕の方に向いた。
「スティーブン、至急“リアーナ”について調査を。その女性は教会にいた子供のうちの1人の可能性がある。ザップも、彼女に接触を試みてくれ」