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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第21章 それは甘くかぐわしい香り



私の目をじっと見つめた後、アメリアの顔は次第に俯いていった。

「そう、ですか……」
「すまない……」

沈んでしまった彼女を慰めたいものの、言葉を重ねると本当の事を口にしてしまいそうで、私は沈黙を選択した。

カトラリーと食器の触れる音だけが部屋に響く。
静かな朝食を終え、アメリアを部屋に残して執務室に戻った。


*************

*スティーブンside*

「往生せいや、旦那ぁああ!!」

クラウスが少女の部屋から執務室に戻ってきたと思ったら、ザップが待ち構えていたかのようにクラウスに飛び掛かっていった。

これも見慣れた日常の風景の一部だ。
クラウスは慣れた手つきでいつものように瞬く間にザップを畳んだ。

(おや?今日は少しばかりザップが伸びるのが早かったな)

ザップの鍛錬に付き合ってやっているつもりなのか、普段はもう少しクラウスも力を加減しているのに、今日はどこか力んでいる。
見た感じいつもと変わらない様子だが、若干の精神の動揺が見られる。

また、何か胃を痛めるような悩み事でもあるのかい、クラウス。

クラウスが曲がったネクタイを整えた時だった。

ふわりと香った甘い花々の香り。
ジャスミン、ローズ、ネロリ……一種類だけじゃない。
次々と色んな花の香りに変化している。
不思議な匂いだ。

しかし、妙だ。
この香り、クラウスだけから匂っているものじゃない。

「どうしたのかね、スティーブン」

匂いの元を確かめようとクラウスに近寄る。
クラウスの声音と目に若干の動揺が見られた。

「…いやちょっと気になって」
「何だろうか」
「君と、ザップから同じ匂いがするんだ。甘い花々の香りが。君もザップもこんな香水はつけてなかったと思うんだが」
「…!!」

裏街道を歩き続けているせいか、僕は普段から周囲の変化に敏感になっている。
些細な変化や異変を察知しなければ、この世界では命取りになるのだから仕方のない事だ。

だけどどうやら僕が探り当てたこの匂いは、クラウスには伏しておきたい事案だったらしい。
先ほどよりハッキリと、顔に動揺が現れていた。

「…ザップ。目を覚ましたまえ、ザップ」

クラウスはしゃがみこんで床に転がるザップの肩を揺すり始めた。
ものの数秒で意識を取り戻したザップだったが、まだ頭はぼんやりとしているらしい。

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