第20章 依存
「ええ、本気です。しかしそれでは彼女の人生を過去に縛り付けたままにするのと同じです。先生のおっしゃる通り今の彼女は私の他に頼る術がないだけですから。誰かに頼り切るばかりではなく、自分で生きていく強さを彼女には持って欲しいのです」
クラウスの言葉を聞いて、コナー医師の視線は若干和らいだ。
アメリアの一生を背負うことを厭わないと言い放ったクラウスが、邪な想いでその発言をしたのではないとコナー医師に伝わったようだった。
「その言葉を聞いて安心しました、ミスタ―・クラウス。失礼ながら、貴方のことは少々穿った見方をしていましたので。しかし…なんとも奇特な方ですね、貴方という人は。貴方の精神構造も非常に興味深いものがある」
じっとクラウスを見つめるコナー医師の目がおもちゃを見つけた子供のように爛々と輝きだす。
自分を研究対象かなにかのように見つめる医師の目に困惑しながら、クラウスは咳ばらいをひとつした。
「彼女が自分の望むように生きていけるように、私は助力を惜しみません。ですから、先生どうか──」
「分かっています。僕もあの子がより良い人生を送れるように努力します。早いうちに、『儀式』をせずに食事を取れるようにしていきたいと思っています。その為にはミスタ―・クラウス。貴方の協力が不可欠です」
「ええ。私に出来る事なら何でも協力します」
「よろしくお願いします」
互いに頭を下げて、クラウスは診察室を辞した。
扉を開けるとすぐにアメリアが飛びつかんばかりの勢いでクラウスの元に駆け寄ってきた。
自分を求めてやまないアメリアの様子に胸があたたかくなりながらも、先ほどのコナー医師の言葉がクラウスの頭をよぎる。
──彼女は貴方に依存している
寄る辺の無い彼女にとって、自分はたまたま近くに転がっていた棒きれのようなものだとクラウスは思い直す。
どれほど自分が彼女のことを慈しもうとも、アメリアにとってはそばにあった棒に寄りかかっているだけの事であって、決してそこに愛情や恋情が潜んでいるはずはないのだ。
アメリアに伸ばしかけた手を、クラウスはゆっくりと下す。
「…クラウスさん、手を繋いでも?」
おずおずと自分を見上げるアメリアに、クラウスの目は自然と細められていった。