第20章 依存
「興味深い、というのは貴方とのことです、ミスター・クラウス」
クラウスの心を読んだかのようにコナー医師が言った。
「私、ですか?」
「貴方も感じておられるでしょうが、ミス・アメリアは依存対象を牧師から貴方にスイッチしている。」
「依存……」
クラウスも感じていた事だった。
常にクラウスがそばにいないと不安に駆られるようになっているアメリアを見ていれば、クラウスでなくとも気づいただろう。
「どうも彼女は元々依存しやすい性質を持っているようです。それに加えて貴方とは『儀式』での繋がりがある。彼女の命を貴方が握っているといっても過言ではありません。
ミス・アメリアが貴方に依存してしまうのも無理はない話です。
しかし、これでは今度は貴方がいなければ生きられなくなってしまう。
ミスタ―・クラウス。貴方は一生涯彼女の面倒をみて生きて行かれる覚悟がおありですか」
コナー医師の目は真剣だった。
重々しい空気に包まれた診察室の中で、クラウスはしばらく押し黙って考えていた。
チ、チ、と時計の秒針の音が返答を急かすかのように部屋の中に響く。
(──アメリアには普通の、他の年頃の子達と変わらない生活を送ってほしい。
その為に私は全力を尽くそうと心に決めた。
一生涯彼女のそばにいると口にするのは容易い。
実行することもまた、不可能ではない。
しかしそれでは真に彼女の為にはならないのではないか。
彼女にはひとりの人間として自分の足で立って生きていく強さも持ってもらわなければ、万が一私に何かあった時に、彼女は──)
クラウスの沈黙は長く続いた。
そのためコナー医師は彼の返答を「ノー」だと結論づけてしまったようだった。
「難しいでしょう。貴方にとってあの子は赤の他人にすぎませんしね」
どこか突き放した言い方のコナー医師に、クラウスは咄嗟に言葉を放った。
『赤の他人』それは事実だとしても、クラウスは反論せずにはいられなかった。
「──彼女の人生を支えることに躊躇はありません」
「本気、ですか?」
驚いた目でコナー医師はクラウスを見る。
縁もゆかりもない16歳の少女の人生を預かるだなどと、容易く口に出来るものでは無い。
クラウスの発言がただの善意からくるものなのか、コナー医師の目は次第に疑わし気なものに変わっていった。