第20章 依存
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彼女を診察室に1人残すことに不安がなかったわけではない。
いつになく力強く握りしめてくるアメリアの手に、彼女の
不安な気持ちがありありとあらわれていたし、現にコナー医師に食い下がって彼女は私の手を離そうとしなかった。
熱を出してからというものアメリアは眠りにつくまで私の手を握っていないと眠れなくなっていたし、起きている間も私のそばから離れようとしない。
このところ大きな事件もなく、彼女のそばについてあげられる時間がとれるのは幸運だった。
けれども、このままで良いのだろうかという不安は常につきまとう。
今日からようやく治療が再開されるとはいえ、ミス・エステヴェスから医師は交代している。
こういった医療を熟知しているわけではないが、精神的な治療というものは医師との相性も大きいだろう。
アメリアは、また一からコナー医師との信頼関係を築かねばならない。
話したくない過去のことも、また聞かれるのだ。
何度彼女の傷を抉れば彼女の治療は終わるというのか。
「治療」のために、「儀式」のために、生きるために、彼女は何度となく傷を負い続けている。
即効性のある治療法など今はないのだと理解している。
けれど、日に日に私に依存を強めていくアメリアの事が私は心配でならなかった。
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「ミスタ―・クラウス。少しお時間いただけますか。ミス・アメリアの事についてお話が」
診察室から顔を出すなりコナー医師はクラウスを診察室に招き入れた。
アメリアと入れ替わるようにしてクラウスは真っ白な部屋の中へと足を踏み入れる。
「クラウスさん」
すれ違いざま不安げな目で見上げるアメリアに、クラウスは優しく彼女の頭を撫でた。
「ギルベルトと待っていてくれたまえ。もう少しだけの我慢だ」
「……はい」
アメリアの声に元気がないことを心配しつつも、クラウスはコナー医師に促されるまま診察室中央の椅子へと腰をかけた。
「ミス・エステヴェスからカルテは送っていただいていましたが……話を聞けば聞くほど、彼女の状態は興味深いものですね」
コナー医師の言葉に、クラウスの眉がぴくりと持ち上がる。
──興味深い、とはいったいどういう意味だろうか。