第20章 依存
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久々の発熱はしばらく続き、熱が下がるまで数日かかった。
体調が回復した頃にちょうどコナー医師による初めての診察の日がやってきた。
「申し訳ないけれど、ミスタ―・クラウスには退室してもらわないといけないんだよ」
コナー医師の言葉に、私はぎゅっと手に力をこめた。
握りしめたクラウスさんの手は握り返してこなかった。
「どうしても駄目なんですか」
まるで駄々っ子だ。
10代後半のティーンエイジャーの言動とは思えないほど子供じみてると自分でも思うけれど、そばにクラウスさんがいないと落ち着かないのだから仕方ない。
「これは君の治療だからね。患者のプライバシーは何よりも優先されるべき事だ。君とミスタ―・クラウスの関係性は話に聞いているけれど、彼は君の血縁者ではないし言ってみれば赤の他人なわけであって」
赤の他人、そう言われるとそうなのだけれど。
どうしてこう胸に突き刺さるのだろう。
コナー医師は事実を口にしているだけなのに。
「特殊な事情である事は理解しているけれど、私は患者と一対一で向き合いたいんだ。それに彼がいると、君も心から自分の思いを話せないと思うよ。…辛いだろうけれど、過去の話もしないといけないからね。あまり人に聞いてほしくないこともあるだろう?」
コナー医師はあくまで穏やかに、私を諭すようにそう言った。
確かに教会でのことを、すでに知っているとはいえ、またクラウスさんの耳に入れるのは避けたかった。
私があそこで何をしてきたか。
どうやって生きてきたのかをクラウスさんが思い出してしまえば、今握りしめているこの手が私に触れるのを躊躇してしまうかもしれない。
クラウスさんにとって、教会での事は『汚らわしい』ことに他ならないのだから。
「……分かりました」
本当は嫌だった。
怖かった。
手を離してしまったら、もう二度と握れなくなるんじゃないかって不安の方が大きかった。
クラウスさんは目を細めて私の頭を数度撫でて部屋を出て行った。
──大丈夫、私は外で待っているからと静かに言い残して。