第20章 依存
あぁなんて冷たくて気持ちがいいのだろう。
「…熱はまだ下がっていないようだな。ベッドで休んでいなければ」
言ってクラウスさんは私を抱きかかえて部屋に連れて行こうとした。
「お仕事中ですよね……邪魔をしちゃってごめんなさい」
彼の肩越しには、電気のついたスタンドライトと電源の入っているのだろうパソコンが見える。
机の上には書類の山が積み重なっていた。
世界を守るヒーローも、書類仕事をするのだと思うとなんだか面白い。
けれど大事なお仕事には変わりない。
私が部屋を出なければ、クラウスさんの集中を切らすことも、仕事を中断させることもなかったのだと思うと申し訳ない気持ちになった。
「気にしなくていい。ちょうど休憩をとろうと思っていたところだ」
ベッドの上に私を置いて、クラウスさんはすぐに部屋を出て行こうとしていた。
「目をつむって横になっているだけでも体は回復する。熱で熟睡できないかもしれないが、今はとにかく休みたまえ」
ベッドから離れていくクラウスさんの手をつかむ。
つかんだ手は、じっとりと汗ばんでいた。
「……クラウスさん、少しの間だけでいいですからそばにいてくれませんか?」
声が震えた。
嫌だと言われたら?
手を振り払ってしまわれたら?
考えただけで心臓が張り裂けそうだった。
「心細いんです、部屋の中がとても静かで。1人になるのが怖くて……」
少しズルい言い方だったかもしれない。
きっとクラウスさんならこんなことを言われたらほうっておかないだろうって思いながら口にした。
「君の不安に気付けずすまなかった。君が眠れるまでそばにいよう」
思った通り、クラウスさんはそばにいてくれると頷いた。
心細かったのは本当だけど、彼が断われないように言葉を選んだことは少し胸が痛んだ。
嘘をついて彼を引き留めたみたいだったから。
それでもクラウスさんは本当にずっとそばについていてくれた。
何度か眠気に負けそうになって私の手の力が抜けそうになったけれど、その度にハッと意識が引き戻されてクラウスさんがそばにいることを確認するようにぎゅっと手を握った。
すると私に応えるように彼もまた手を握り返してくれて、それで安心して私はまたウトウトとし始めた。
そんなやり取りを幾度か繰り返したうち、ようやく私は眠りにおちていった。