第20章 依存
クラウスさんが部屋を出て行ってから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
ぼんやりとした頭で窓の外に目をやると、すでに太陽は姿を隠し代わりに人工的な灯りがほうぼうに灯っていた。
部屋の中はしんと静まり返っている。
物音ひとつしない。
人の気配もない。
途端に心細さに襲われた。
このまま一人、この部屋に置き去りにされてしまうのではないかと不安になる。
クラウスさんは私の事を見限ってしまったかもしれない。
悲し気な目をして私を見つめていたクラウスさんを思い出す。
良かれと思ってとった行動だった。
今まで出会った男性なら、きっと喜んでもらえた場面だった。
だけど彼は違った。
喜ぶどころか、悲しそうな顔で私の行為を咎めた。
クラウスさんからすれば、私の行為は汚らわしいものだったに違いない。
私の身に染みついた生き方は、クラウスさんには全くそぐわないものなのだ。
変わりたいと、心から思う。
彼にふさわしい人になりたいだなんて大それたことは言わないけれど、過去の自分を断ち切って生きたい。
これ以上、クラウスさんに嫌われたくないから。
じわりと視界の端が滲む。
教会を飛び出してからというもの、随分と涙もろくなってしまった。
あの頃より恵まれた環境にいるはずなのに、部屋に1人でいる事が怖い。
クラウスさんがいないと、呼吸の仕方すら忘れてしまいそう。
私をひとりにしないで。
好きになってほしいなんて言わないから、どうか嫌いにならないで。
少しの間でもいいから、そばにいて。
心細さを埋めたくて、私はふらつく足でベッドから抜け出していた。
**********
ドアを開けると、微かに木の軋む音がした。
昼間ライブラの人達がいた広間は、電気が消されて私の部屋と同じようにひっそりと静まり返っていた。
けれど部屋の一か所だけ、煌々とスタンドライトが明るく光っている場所がある。
そこにいた人物が私に気づき、さっと立ち上がった。
「アメリア、どうしたのかね」
カツカツと革靴を鳴らしてクラウスさんが駆け寄ってきた。
眼鏡の奥の瞳は、暗がりでよく見えなかったけれど、私の顔をのぞきこむようにして身をかがめてくれた彼にホッとした。
──嫌われた、わけじゃないのかな。
「気分はどうかね。熱は?」
大きな手が伸びてきて、額に触れる。