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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第19章 熱にうかされたふたり



「……申し訳ありません。…寝ていれば、良くなると思いますから…」

「むぅ……しかし、栄養を取らなければ治るものも治るまい」

「……ですが……」

ミスタ・クラウスはお気づきになられていないのだろうか。

気付いていたとしても、彼ならさほど気に留めないのかもしれない。

「冷たいものがよければ、バニラアイスはいかがかね」

「……」

私が首を振ると、またミスタ・クラウスが困った顔をされた。

まるで駄々をこねる子供を諭すように、ミスタ・クラウスは私の目線に合わせようと身をかがめた。

「何か、食べなければ。ほんの少しでいい。食欲がわかないかもしれないが、私からのお願いだ」

「……本当に、大丈夫です。風邪は寝て治すものですから」

「君は頑固なところがあるな」

「ミスタ・クラウスだって」

「……」

「……」

私達は二人して見つめ合ったまま黙りこくってしまった。

少しの沈黙の後、ミスタ・クラウスが一度何か言いかけようと口を開いたものの、音を飲み込むようにまた口を閉じてしまわれた。

私を見つめる目が、一瞬泳いでまた私の方へ向く。

ぎゅっと寄せられた眉根はミスタ・クラウスの胸中を表しているようだった。

「口づけの事を気にしているのだろうか」

「……はい」

私は何も食欲がなくてスープを口にしない訳では無かった。

ミスタ・クラウスの言う通り、食事をするための“儀式”をしたくなかったのだ。

風邪をひいている私とキスをすれば、ミスタ・クラウスにうつってしまうかもしれない。

何から何までお世話になっているのに、風邪をうつすだなんてあってはならない。

「やはり、あまり気持ちのいいものではないだろうな……私との、キスは」

「あ、あの、そういう事ではなくて……風邪を、うつしてしまうかもしれませんから」

ミスタ・クラウスの三白眼が大きく見開かれていく。
そして幾度か瞬きをされた後、ゆっくりといつもの表情に戻っていった。

「……君はそんな事を気にしていたのか」

ミスタ・クラウスはどこかホッとしたような声で仰った。

「そんな事ではありません。これ以上クラウス様にご迷惑をおかけする訳には」

「潜伏期間を考えれば、すでに感染していてもおかしくはない。今更気に病むことはないだろう」

「ですが」


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