第18章 ライブラへようこそ
「うむ……そんなに畏まらないで欲しい。事情があるとはいえ、君を拘束してしまう事に変わりはないからな。君には不自由をさせたくないのだ。暮らしているうちに不便な部分が出てくるかもしれない。その時はすぐに知らせたまえ」
「はい。ありがとうございます」
「…そうだ、ギルベルトに紅茶を淹れてもらおう。お茶をするにはちょうどいい時間だ」
ギルベルト、とミスタ・クラウスが声をかけるとミスタ・ギルベルトは頭を下げてキッチンへと向かわれた。
紅茶の準備が出来る間、私はミスタ・クラウスと窓の側のテーブルに向かい合って座って待っていた。
窓の外に目をやると、大きな蛇にたくさん足が生えたような不思議な生き物が通り過ぎていった。
他にもふわふわと宙を漂う風船みたいに膨らんだ猫がいたり、教会にあった絵本の中の世界みたいで、ますますこの街の面妖さに惹きつけられる。
私自身、普通ではないから。
彼らと同じ面妖な存在なのかもしれないけれど。
クローン、なのかどうか自分では分からない。
兄さんやリアの事、他の子供達のこと、これからの事。
何か考えようにも問題がありすぎて、何から考えていったらいいのか分からない。
外を見たまま色々と考えこんでしまった私に、ミスタ・クラウスは何もおっしゃらずにただ静かに私と同じように外の景色を眺めていた。
「お待たせいたしました。ギルベルト特製のスコーンもご一緒にお召し上がりください」
ミスタ・ギルベルトお手製だというスコーンがクリームと真っ赤なジャムを添えられて、金色に縁取りされた小さな白いお皿に乗ってテーブルの上に現れた。
バターの香りがふんわりと漂い、その香りに反応してお腹が正直にくぅと鳴る。
「……ごめんなさい」
「何を謝ることがあるのかね? 食欲があるのは良い事だ」
「私も嬉しい限りでございます」
ミスタ・クラウスも、ミスタ・ギルベルトも穏やかに微笑むだけで、私を窘めることはしなかった。
生理現象だから窘めることではないのかもしれないけれど、このお二人の前では『きちんとしなければ』という強迫観念にも似た何かに駆られてしまう。
「紅茶はアッサムをお持ちいたしました。お好みでミルクティーにしても美味しくお飲みいただけます」
「ありがとうございます」