第18章 ライブラへようこそ
「...私、普通になれるのかな……」
アメリアは視線を足元に落としたまま、呟いた。
それは誰かに問いかけた言葉では無かったのかもしれない。
けれど床を見つめて沈んだように見えるアメリアを横にして、クラウスは何か口にせずにはいられなかった。
「普通...その言葉の定義が難しいところだが......君が望む生き方が出来るようにサポートしていくつもりでいる。遠慮なく頼ってほしい」
「ありがとうございます、ミスタ・クラウス」
クラウスの言葉が社交辞令ではない事を、アメリアも十分に分かるようになっていた。
これまで赤の他人にも関わらず、骨身を惜しまず自分を助けてくれたクラウスを、アメリアは生きてきた中で一番の信頼を寄せるようになった。
それと同時に、クラウスに依存していく自分に不安を抱いてもいた。
寄る辺の無いアメリアにとって、クラウスは唯一の拠り所であり、生きる術でもある。
「……なるべく早く、自分の足で立てるように努力します。それまで、少しだけお力をお貸しください」
「もちろんだ」
力強く頷くクラウスに、アメリアはまた勇気づけられていた。
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「体に不調はないだろうか」
「はい、特にありません」
術式を解除してから1時間が経った。
外見も、体調にも今のところ特に異変は起きていない。
今後どのような変化がアメリアに現れるのか、それとも何も起こらずに済むのか、定かでは無かった。
『分からない』という事は、アメリアを不安にさせた。
けれど、隣に寄り添ってくれるクラウスの顔を見れば、分からない事をいくら思い悩んでも仕方ないのだと、アメリアは思うようになっていた。
長老の確認を取り、クラウス達は再びライブラ事務所へと向かった。