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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第18章 ライブラへようこそ



「ありがとうございました」

「何かあればすぐに私のところに来るように。…ああ、それと君の“力”については後日改めて調べることにしよう」


診察室を出たクラウスとアメリアは、ロビーへと向かった。

広い廊下を看護師や白衣を着た医師たちが行き交う。

大きな病院なだけあって、患者の数も、病院に勤める者の数もそこらの病院よりも多い。

けれどその中で見かけるのは、“人”──人類(ヒューマ)の姿ばかりだった。

異界人で溢れるヘルサレムズロットにおいて異界人をあまり見かけない場所というのは少ない。

教会を出てから異界人を見ない日は無かったアメリアにとって、人類(ヒューマ)で溢れるこの場所は特異なもののように見えた。

行き交う人々をなんとなく目で追っていたアメリアの横を通り過ぎた医師が、ふと立ち止まり振り返った。

「失礼、君はミス・アメリア・サンチェスだね?」

初対面の医師の口から出てきた自分の名前に驚きつつも、アメリアは「ええ」と小さく返事をした。

きっちりと髪をワックスで固め、綺麗にオールバックのスタイルを決めている男性医師は、白い歯を見せて笑顔でアメリアを見つめている。

病院の医師であれば危害を加えるようなことはないだろうが、それでも万が一の可能性がクラウスの頭をよぎった。

「クラウス・V・ラインヘルツです」

アメリアと医師の間に割って入るように、クラウスは身を乗り出して挨拶をした。

「ああ、どうも。彼女の後見人の方ですね? いきなり声をかけて驚かせてしまいましたかね、失礼。私はコナー・サンダース。ミス・エステヴェスからミス・アメリアの治療を引き継いだ医師です」

「そうでしたか」

医師の正体が分かったところで、クラウスは静かに身を引いた。

「ミス・エステヴェスから話はうかがっています。ただ、診察の予約が今週は埋まっていて、申し訳ないが来週以降になりそうなんです」

「分かりました。それほど評判ということでしょう。どうか彼女の事もよろしくお願いします」

「ええ、力を尽くします。それではまた」


さわやかな笑みを浮かべて去って行くコナー医師の後ろ姿を見送り、二人は再びロビーへと向かい始めた。

「…優しそうな、方でしたね」

「そうだな。ミス・エステヴェスの紹介なら間違いないだろう」
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