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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第18章 ライブラへようこそ



白い肌に痛々しく浮かび上がる傷の数々。

その傷のほとんどは引き攣れたように肌が盛り上がっていた。

刃物によるものか、または鞭のようなもので叩かれた跡だろうか。

目にするだけでその痛みが自分の体に浮かんでくるようで、クラウスは傷を見つめながら自然と険しい顔になっていった。

──教会で、彼女はどれほど惨い仕打ちを受けてきたのか。

いくつも残るその傷跡は、彼女が歩んできた凄惨な過去を必死に訴える声なき声だ。

長老の持つペン先がつと背中に触れると、アメリアの体は微かに震えた。
不安からかクラウスの手を握りしめる。
クラウスは何も言わずにアメリアの手を握り返した。

ちら、と長老とクラウスの目が合ったものの、長老は気にもせずそのまま詠唱式をアメリアの背中に描き込み始めた。

丁寧に描き込まれた詠唱式は、長老が呪文めいた文言を呟き始めると同時にうっすらと光り始める。
長老の言葉が続けば続くほど、その光は明るさを増していく。

輝きを増す詠唱式のあたりは熱を持ち始めているのか、そばにいたクラウスはジワリと周囲が暖かくなっていくのを感じた。

ぐ、と握りしめたアメリアの手に力が入る。
痛みを堪えるように口を真一文字に結び、ぎゅっと目を瞑ったアメリアに、彼女を見つめるクラウスの顔もつられて硬くなった。

時間にして数分だった。
けれどいつ終わるのか分からないまま受けた術式の解除は、アメリアにとって長いものに思えたに違いない。

チリチリと紙が燃えていくのと同じように、背中に描かれた詠唱式が赤い光を放ったのちに黒ずんでじわりと消えていった。

「終わったよ」

長老の一言に、ほっと溜息をついたアメリアの手はじっとりと汗ばんでいた。
握っていたクラウスの手も同様だった。

「何か違和感はあるかい?」

そう尋ねられたアメリアは軽く体を動かしてみた。
椅子から立ち上がり、数歩歩いたり腕を振ってみたり。

動作に支障はなさそうに見える。
目に見えて何か変化が起こったようには感じられなかった。

「今のところ、特にありません」

「そうか。まぁすぐに変化が起きるとは限らないが、ひとまず解除には成功したようだね。もうしばらく院内で様子を見て、異常が無ければ今日のところは帰ってもらって構わないだろう」
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