第3章 God's will
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ダニエルは小さな寂れた教会の前まで来ると、顔をしかめた。
(──いくら場数を踏もうとも嫌な臭いだ)
規制線の張られた外からでもすでに、えづきたくなるような強烈な腐臭が漂っている。
ダニエルが教会の中へと足を踏み入れると、すぐに目に飛び込んできたのは大きな十字架だった。
腐臭の元である遺体の上に厳然たる姿で突き立っている。
「…ずいぶん風変わりな十字架だな」
手袋をはめて、ダニエルはコンコンと十字架を叩いた。
十字架の上部は木材で出来ているのに、遺体に突き刺さっている部分に近づくにつれ、鉄のような材質に変化していっている。
そのまま遺体の方へ視線を移す。
十字架に串刺しにされた遺体は、腐敗がすすんでいるものの、2つのものが折り重なっているとすぐに見て取れた。
それというのも、ひとつは明らかに人間の遺体であり、またもうひとつは明らかに異界人の遺体であったからだ。
人間の方は、その服装からして牧師だと推察された。
異界人の方は、身元を特定出来そうな特徴や持ち物は見つからなかった。
「ん? これは……」
ダニエルの視線の先には、異界人の腐敗した体の下にあるちぎれた腕があった。
こちらも腐敗が進んでいるが、どうやら人間のもののようだ。
「牧師の腕…ではないな」
蛆がわき、いまにも腐り落ちそうではあるものの、牧師の体には二本の腕がくっついている。
この牧師が三本の腕を持つ人間でなければ、このちぎれた腕の持ち主は別にいるはずだ。
「一体誰の腕だ?」
黒ずんだ血だまりは、いったい何種類の血が混ざっているのだろうか。
目視だけでは判別できないことが多すぎる。
ダニエルは遺体の分析を待つことにして、教会の敷地内を見て回ることにした。
教会の裏手には小さな中庭があり、そこをぬけると小屋がいくつかあり、その近くには長屋のような建物がひとつあった。
小屋は、粗末なベッドと小さなテーブルと椅子がひとつずつ置かれた簡素なもの。
教会につとめていたものの寝所だろうか。それか宿を求めてきた者に貸し出す寝所か。
どちらにしても、めぼしいものは見当たらず、ダニエルは長屋へと向かった。