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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第18章 ライブラへようこそ



*************

─セント・アラニアド中央病院─


「──確かに彼女には居場所を知らせる術式がかけられているようだけど」

LHOS(レオス)のニューヨーク支部代表の“長老”は眼鏡を光らせながら縮こまっているアメリアに目を向けた。

LHOS──『League of High Order Spirituals』の頭文字をとってつけられたその名称の組織は、限られた者にしか知られていない。

この組織を構成する大半の人間がなんらかの超能力を持っており、この長老率いるニューヨーク支部のLHOSがあの数年前起こった大崩落を途中で止めた結界を管理している。

いわばこのニューヨーク──ひいては世界の崩壊を止めた立役者だ。

クラウスから大体のあらましを聞いた長老は、手早く彼女を“診察”すると、クラウス達を診察室へ呼び寄せ、アメリアにかけられた術式について説明を始めたのだった。


「術式は出鱈目に書き換えられている。だからこの術式はほとんど機能していないと思うよ」

「しかし、システムには引っかかってしまうのです」

「うーん…なんと説明したら分かりやすいかな」


長老はポケットからペンを取り出すと、手近にあった紙に線を引き始めた。


「……小さな箱を思い浮かべてほしい。箱の中には、はじめドーナツが入れられていた。だがそれを全く違う別の物──たとえば…そうだな、花に入れ替えてあるんだ。

しかし中身は違うが、外の箱は最初の箱のままだ。
おそらくそのシステムは“箱”の部分に反応して侵入を防ぐプログラムが働いているのだろう」

「その“箱”自体を消すことは可能でしょうか」

「可能だけど......」

言い淀む長老に、クラウスの顔が曇る。

「何か不都合でも?」

「この術式は彼女の体そのものに組み込まれている。術式を消すこと自体はそう難しくはないが、消した後どのような反応が現れるか分からない。命に関わる、とまではいかなくとも何がしかの影響はあるだろう。それでも術式を解除するかい?」

どんな影響があるか分からない。
良い方に転ぶのか悪い方に転ぶのかそれすら定かではない。

そんな博打のような事を、この少女に課すのは酷すぎる。

クラウスが首を振って口を開こうとした時、アメリアのハッキリとした声が響いた。

「消してください」

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