第17章 転換
クローゼットの隙間から周囲を見回し、聞き耳をたてる。
部屋の中はしんと静まり返っていた。
リアは静かにクローゼットを抜け出すと、手早く服を着て、部屋の中の探索を始めた。
クローゼットの中にはザップのものと思われる男物の服がいくつかぶら下がっている。
ズボンのポケットやらジャケットの胸元のポケットを漁ってみたものの、出てくるのはぐしゃぐしゃのレシートやら、潰れたタバコの箱やら、ゴミばかりだった。
洗面台、テレビ前のテーブル、トイレ……あちこち見て回ったものの、特にめぼしいものは見つからない。
ふとベッド脇のサイドテーブルに目をやると、ザップの物だろうスマホが置いてあった。
リアはすかさず手に取ったものの、スマホにはロックがかかっていて中を見ることは出来なかった。
(そりゃあ、まぁそうよね……)
ロック解除は出来ずとも、このまま持ち帰れば……そう思ったものの、この状況でスマホが無くなれば真っ先に疑われるのはリアだ。
次が無いと決まったわけではない。
時間はあまりないが、焦ってザップとの繋がりを切ってしまうのもいかがなものか。
リアの中で天秤がグラグラと揺れていた。
「!」
突然、手の中のスマホが鳴りだした。
画面には『クラウスの旦那』と表示されている。
(クラウス?! クラウス・V・ラインヘルツかしら……?!)
思わぬ人物からの電話に、リアは興奮せずにはいられなかった。
ただ『クラウス』という名前だけでは、あの血を操る大男と同一人物かどうかは断定できない。
リアの指は自然とスマホの画面に触れていた。
ゆっくりと指をすべらせると、スマホから声が聞こえてきた。
『……ザップ? クラウスだが。急で悪いが事務所に来てもらえるだろうか』
──間違いない。この声は、あの時ダイナーにいたあの赤毛の男と同じだ。
リアの中で点と点が繋がった。
クラウス・V・ラインヘルツとザップは何かしら接点がある。
事務所、という事は、もしかしたらザップは“ライブラ”と関係があるのかもしれない。
(ザップが慈善事業に携わっているとは到底考えられないけど……)
『もしもし? 聞こえているか、ザップ』
じっとスマホを見つめていたリアに、濃い影が落ちる。
次の瞬間にはスマホはリアの手を離れ、持ち主の手に戻っていた。
「──悪ィ旦那。何だって?」