第17章 転換
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部屋には紫煙が漂っていた。
ベッドの上では、けだるい表情でリアが葉巻を燻らすザップに体を寄せている。
すでに幾度か体を重ね合った二人は、その余韻にぼんやりと浸っているようだった。
「ねぇザップ」
胸やけしそうなほど甘ったるい声。
その声にザップは締まりのない顔でリアの方に視線をやった。
声をかけた時はつれない態度だった彼女が、ここまで自分に溺れてくれるとは。
ザップはベッドの上でのテクニックに自信があったが、とろんとしたリアの目を見てさらにその自信を深めていた。
「前やってた、あの不思議な技。見せてちょうだい」
「不思議な技? ……ああ、これか」
言ってサイドテーブルの上のジッポを掴むと、ザップの指先から細く赤い糸のようなものが飛び出した。
糸は自由自在に動き、勢いよくリアの目の前を通り過ぎたかと思うと、床に脱ぎ捨てられた下着を引っ付けて再びリアの目の前をかすめていった。
ポン、と下着をリアの前に放って、赤い糸は消えた。
「…本当に不思議。今のって、貴方の血でしょ? 痛くないの?」
「針自体は小せぇからな。そんなに痛みはねぇ」
ザップがジッポの真ん中のボタンのようなものをカチカチと鳴らすと、ジッポの角から注射針のような小さな針が飛び出していた。
その針で指先を傷つけ、出血させているらしい。
リアの言う不思議な技を使うには、毎度自傷せねばならないようだ。
(──自分の血を使って戦うなんて……どうかしてるわ)
いくら小さな針だとはいえ、全くの無痛ではないだろう。リアは小さく顔を歪めた。
「力を使い続けたら、どうなるの? 体の血が無くなっちゃっうことってあるわけ?」
「まぁ、長時間使ってりゃ貧血になるわな。さっきぐらいのなら大したことねぇけど……にしてもやけに食いつくな。そんなに面白ぇか?」
ジッポをサイドテーブルに置き、咥えていた葉巻を掴んでザップは煙を吐き出した。
アルトゥーロ・フエンテのコーヒーにも似た香りがリアの体にまとわりつく。
「ええ、面白い──というか興味深いの。以前、街中で似たような力を持つ人を見たことがあるんだけど」
「……へぇ」
「あの時は遠くから見てただけだから、こうやって目の前で見れてちょっと興奮してるっていうか」
「ふぅん。物好きなこって」