第17章 転換
「しかし彼女の事を組織も探しているだろうし、兄の事もある。私の目の届く範囲に居てもらわねば」
クラウスは頑として譲らなかった。
スティーブンに伺いをたてているようで、その実、クラウスの中ではもうとっくに答えは決まっているようだった。
しかしスティーブンもそう簡単には折れなかった。
「……言いたいことは分かるが、しかしだなクラウス。彼女を僕らに近付ければ近付けるほど、彼女自身狙われる可能性が飛躍的に上がるって事、考えてるか?」
あくまでアメリアの身を心配する体で、スティーブンはクラウスの意思を再度確認する。
裏の世界の者で知らない者はない存在の“ライブラ”
しかし、その全容を知る者はライブラメンバーの中でもほとんど存在しない。
構成員がどれだけ存在するのかという事でさえ、把握している者は限られている。
だからこそ、少しでもライブラの内情を知りたがる者は大勢いる。
何か情報を掴んでいると知れれば、あちこちからターゲットにされるのは必須だ。
たとえアメリアが重要な情報を知らなかったとしても、連れ去り、拷問あるいはそれに準ずる方法でライブラの内情を吐かそうとする輩は必ず現れるだろう。
「だからこそ、常に私の側に置くのだ。
事務所ならばもし私が外出しても他の構成員に護衛を頼みやすい上、シンデルマイサーの警備システムもある。彼女の身の安全も保障できる」
理路整然と話すクラウスに、スティーブンはぐうの音も出なかった。
そこまで言われては、それ以上反対のしようがない。
「……オーケー、分かったよ。よほど君は彼女を手放したくないようだ」
つい、スティーブンはチクリとそんな言葉を放ってしまった。
どこまでも頑固なリーダーに対してほんの少しの嫌味だったが、クラウスは全く気にしていない──というより気が付いていないようだった。
「うむ。ミス・アメリアを守るとミス・ハンナと約束を交わしたところだからな。事件が片付き、彼女の治療が終わるまでは、私にはミス・アメリアを守る義務がある」
「義務、ね」
果たしてそれはクラウスの本心だろうか。
少女にご執心のリーダーに、スティーブンは小さくため息をついた。