第17章 転換
ギルベルトの優しい笑みに、アメリアの気持ちは軽くなっていった。
「しかし、病院を出て行かねばならないとなると……彼女の処遇に困るな」
スティーブンの言う通り、このまま病院が異界側に沈むとなると、アメリアの身を置く場所が無くなってしまう。
アメリアの食前の“儀式”さえなければ、他の子供達と共に施設に移送出来たのだが、まだカウンセリングを始めたばかりの今、クラウスとアメリアを離すことは得策とは思えなかった。
スティーブンはいまだにアメリアの“儀式”が演技ではないかと内心疑っていたものの、表面上では納得したフリをして様子をうかがっていた。
あからさまに疑いの目を向けていては、尻尾を出すものも出さなくなる。
今までの経験から培われた余所行きの顔を貼り付けて、スティーブンは純粋に困った顔をしてみせた。
「…その事なのだが、スティーブン」
「何か考えがあるのかいクラウス」
「事務所に、彼女の部屋を用意しようと思うのだが」
「何だって?」
スティーブンは耳を疑った。
事務所にアメリアの部屋を構える。
事務所の一角に部屋を新たに構築するのはそう難しいことではない。
術式で空間拡張を行えばものの数分で部屋自体は用意できる。
問題は、いくらライブラの存在が“公然の秘密”となっているとはいえ、まだその正体のハッキリとしないアメリアを事務所に招き入れる事が果たして正解なのかどうかだ。
アメリアが何らかの意思を持ってクラウスに近づいている場合、それはすなわちライブラの崩壊を狙っているも同然である。
ライブラに──ひいてはリーダーであるクラウスに害をなそうとする者を、スティーブンは決して許さない。
もしもそんな者が現れたなら、一粒の情も漏らさずに徹底的にその存在を潰すのが、スティーブンだった。
クラウスの事だから熟慮の上での発言だろうが──そう思いつつも、スティーブンはすぐには首を縦に触れなかった。
「ミス・アメリアの状態を考えれば、私の身近に住まわせるしかあるまい」
「──なら、近くのアパートでも借りてそこに住まわせればいいんじゃないか?」
スティーブンの提案をクラウスは首を振ってすげなく却下する。