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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第17章 転換



「…本当に、生きておられたのですね」

アメリアはギルベルトの全身をくまなく観察したものの、まだギルベルトが生きている事に半信半疑なようだった。

目の前で確かに半身になったはずのギルベルトは、それが嘘のように以前と変わらぬ姿で立っているのだから、アメリアがそう思うのも無理はなかった。

「私は、少々特殊な体質でしてな。傷を負っても、死なない程度までは回復するのです。それよりも、アメリア様。ご無事で何よりでした。あの時きちんとお守り出来ずに申し訳ありません」

「ミスタ・ギルベルトが謝られることなんてひとつもありません。むしろ謝らなければならないのは私の方です。私が、もっと早くに別行動をとっていれば、素直に事情を話していれば、ミスタ・ギルベルトが巻き込まれることはなかったんですもの。…本当に申し訳ありませんでした」

「アメリア様のせいではございませんよ。貴方は何も悪くありません」

「兄を止められなかった私にも十分、責はありますから」

「何もかもを背負う必要はございません、アメリア様。貴方様がそれまでに十分に戦っておられた事、坊ちゃまからうかがっております」

アメリアの視線がギルベルトからクラウスに向く。
視線を受け取ったクラウスは、ゆっくりと頷いて見せた。

「ギルベルトの言う通りだ、ミス・アメリア。兄君の行為までも、君が背負う必要はない」

「……お二方とも、何故そこまでお優しいお言葉をかけて下さるのですか。私は、そんな言葉をかけていただけるほどの人間では」

「ミス・アメリア、君はどうも自分を必要以上に下げるきらいがある。もっと自信を持ちたまえ。必要以上の卑下は、我々の言葉まで否定することになる」

今までの人生で、自分の事を肯定できる場面がいくつあっただろうか。
クラウスの言葉は最もだと思いつつ、アメリアはなかなか己を卑下する癖から抜け出せそうになかった。

けれど、“儀式”の前にクラウスが言ってくれた『君は“善き人”だ』という言葉を思い返して、アメリアは素直にクラウス達に頭を下げた。

「あ……そんな、つもりは……申し訳ありません、ミスタ・クラウス、ミスタ・ギルベルト。お二人のお気持ちは十分理解しているつもりです」

「分かっておりますよ、アメリア様」

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