第17章 転換
ハンナの後ろ姿を見送るクラウスの胸に、こみあげてくるものがあった。
隣で見ていたスティーブンがぎょっとしてクラウスの肩をたたく。
「おいクラウス、泣くなよ」
「泣いては、いない」
「そんなに目を滲ませて、よく言うよ」
車に運転手が乗り込みエンジンがかけられると、後ろの窓に子供達の顔が集まった。
めいめいに別れの言葉やらアメリアやクラウス達の名を口にしているのが聞こえる。
子供達は見えなくなるまで、ずっと窓から手を振り続け、それにこたえるようにクラウス達も手を振り返した。
車の姿が見えなくなっても、アメリアはその場を動こうとはしなかった。
胸を抑え、唇をかみしめた彼女はこみあげてくるものを決して漏らしはしまいと耐えているようだった。
クラウスはそんな彼女に寄り添い、その背中を優しく撫でていた。
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子供達を乗せた車を見送り、クラウス達が病院内へ戻ると、院内はどこか慌ただしい雰囲気に包まれていた。
待合室には患者や、その家族と思しき人々があふれていた。
その中にギルベルトの姿もあった。
「ギルベルト、どうしたのかね」
「坊ちゃま。ただいま退院の手続きを行っておりまして」
「退院? 明日のはずじゃありませんでしたか」
スティーブンが尋ねると、通りがかったミス・エステヴェスの一人が話に加わってきた。
「急なんだけどウチの病院、明日異界側に行くことになったの。それで今退院と転院の手続きラッシュなのよ」
「向こう(異界)で何かあったのか?」
「妙な病気が流行ってるみたいで。早く治療法を確立させないと、いずれこちら側にも蔓延し始めるかもしれないから。……彼女のカウンセリング途中で潜ることになって申し訳ないんだけれど。こっちで腕のいい精神科医を紹介するわ」
「ああ、お願いする」
「ごめんなさいね、ミス・アメリア。私を一人でも残していければ良かったんだけど」
「いえ、そんな……ミス・エステヴェスのおかげで食事が取れるようになりましたし。怪我の治療もしていただいて、感謝するばかりです」
アメリアは深く頭を下げた。
ミス・エステヴェスは申し訳なさそうにその礼を受け取って、その場を去って行った。
「ミスタ・ギルベルト」
顔を上げたアメリアは、ギルベルトの元に駆け寄った。