第17章 転換
「──それは、分からない。しかし、なるだけ早く終わるように、我々は手を尽くす。ミス・アメリアが言っているように、君達との面会はいつでも出来るように取り計らう。今は、寂しい思いをさせてしまうが……どうか、理解してくれたまえ」
ハンナはじっとクラウスの目を見つめていたかと思うと、ふと目を伏せて何事か呟いた。
「……たい」
「? すまない、ミス・ハンナ。今、何と?」
クラウスが聞き返すと、ハンナはきっと顔をあげて言った。
「…っ、ぜったい、アメリアを守ってねクラウスさん」
「ああ、約束する」
クラウスは真剣な眼差しで頷く。
「アメリア、ぜったい、ぜったい会いに来てね」
「ええ、必ず会いに行くわ」
ハンナはようやく決心がついたのか、ゆっくりとアメリアの元から離れ、バンへと向かった。
バンに乗り込みかけたハンナだったが、ふと何か思い出したように、振り向いたかと思うとまたアメリア達の元へ駆け出してきた。
「どうしたの、ハンナ」
声をかけるアメリアには「ちょっと忘れ物」とだけ答え、ハンナはクラウスの前に立つと小さな手で手招きをした。
何だろうか、と思いながらもクラウスは身をかがめて、ハンナの目線に顔を合わせた。
自分の目線まで降りてきたクラウスに微笑むと、ハンナはクラウスの耳元に口を寄せた。
「アメリアはね、お花が好きなの。歌うのも上手だし、それに、刺繍がとっても得意なのよ。クラウスさんもとびきり仲良しになったら、きっと刺繍してくれるよ」
言って、ハンナは自分の胸元のポケットに施された可愛らしい花の刺繍を指さした。
「それは知らなかった。ミス・ハンナ、重要な情報を提供していただき感謝する」
「どういたしまして」
ふふ、と口元に手をあててハンナは笑った。
初めて会った時に泣き出してしまったとは思えないほど、打ち解けた様子の二人に、アメリアは嬉しさを覚えていた。
「なぁにハンナ、ミスタ・クラウスにだけ内緒話なんて」
「ふふ、だって私クラウスさんと仲良しになったんだもん」
「そうみたいね。初めに言ったでしょう、お話すれば優しく素敵な方だと分かるって」
「うん。アメリアの言う通り、とっても優しい人!」
またね、クラウスさん!とハンナは大きく手を振って、バンに乗り込んでいった。