第17章 転換
「もう少しだけ、時間をくれないだろうかスティーブン」
子供を腕にぶら下げたままそう願い出るリーダーに、ノーと言える者はいない。
軽くため息をつきながら、スティーブンは「10分だけ」と答えたのだった。
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アメリア達が病院の玄関まで降りると、入り口前には一台のバンがつけられていた。
子供達を養護施設に送る、グレーの送迎車だ。
その車の前には、黒のキャップを被った運転手が立って待っていた。
男は子供達の姿を見るなり、にこにこと人のよさそうな笑みを浮かべ、クラウス達に帽子をとって一礼する。
それにクラウス達も頭を下げてこたえた。
「クラウスさん、また遊んでくれる?」
「ああ、もちろんだとも」
「ツェッドさんも、またあの鳥さん見せてね」
「ええ。いいですよ」
クラウスもツェッドも、ここまでなついてくれた子供達と離れるのは少々名残惜しかった。
けれどずっと病室に閉じ込めておくことは出来ない。
彼らはもっと自由に、自分達の人生を生きる権利がある。
たとえ彼らが造られた存在だったとしても、それは揺るぎない。
次々とバンに乗りこんでいく子供達だったが、一人だけアメリアの体にしがみついて離れようとしない子供がいた。
「ハンナ、必ず会いに行くわ。少しの間だけ、我慢してくれる?」
「……」
ハンナは何も答えず、ただアメリアの体に深く顔をうずめるばかりだ。
昨夜、どうしても一緒に眠るのだと言って聞かなかったあの様子を思えば、そう簡単にハンナがアメリアの元を離れるとは思えなかった。
アメリアはなんとか説得しようと言葉を投げかけるのだが、それでもハンナは離れようとしない。
運転手の男も、バンに乗り込んだ子供達も困った顔でハンナの様子を見つめている。
「ミス・ハンナ」
おもむろにクラウスがしゃがみこみ、アメリアに抱き着いているハンナの目線の高さに視線を合わせた。
ハンナは少しだけ顔をあげて、クラウスの目を見る。
「ミス・アメリアも君と離れるのは寂しいはずだ。本来ならば彼女も君達と共に行くところだが……ミス・アメリアには今、どうしても治療が必要なのだ。どうかレディ、共に行けない理由を分かってほしい」
「……いつになったら治療は終わるの?」