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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第17章 転換



その日、スティーブンは朝から暗澹とした表情を浮かべていた。

教会の関係者の足取りはようとして知れず、警察が目星をつけていたクローン製造施設はどれも空振り、アメリアと子供達の身柄を確保した事以外、事件は何も進展を見せていない。

警察と、ライブラを持ってしても尻尾のつかめない相手とは、一体どれほどのものなのか。

スティーブン達が右往左往している間にも、相手は影でほくそ笑んでいるのかと思うと、スティーブンは無性に腹が立って仕方なかった。

昼になり、重い足取りでブラッドベリ中央病院へと赴き、アメリアの部屋へと向かったスティーブンの目に飛び込んできたのは、なんとも不思議な光景だった。


「──おいおい、いつから君達は保育士になったんだい」


部屋の中では、両腕にそれぞれ子供をぶら下げたままぐるぐると回るクラウスの姿と、鳥の形に切り出した紙を宙へ舞わせているツェッドの姿があった。

クラウスの周りには子供達が今か今かと自分の番を待ち目を輝かせ、ツェッドの手品のような芸を見ている子供達は、食い入るように優雅に空を舞う紙の鳥を眺めている。

スティーブンの来訪に気が付いた二人だったが、どちらも手を止めることなく、視線だけスティーブンによこした。

「うむ、随分と気に入ってもらったようでな」

言って嬉しそうにクラウスは回り続けている。

「そりゃ、良かったな」

朝から自分が抱えていた陰鬱としたものが馬鹿らしく思えるほどに、微笑ましいこの部屋の光景にスティーブンは頭を抱えつつもどこか笑わずにはいられなかった。

「スティーブンさんがいらしたという事は、お迎えが来たという事ですか」

ツェッドは飛ばせていた紙の鳥を一人の子供の手に渡しながらスティーブンに尋ねた。

「ああ。時間だよ、君達」

子供達に目を向けると、彼らは一様に不満そうに頬を膨らませたり、口をとがらせ始めた。

「えーっ、私まだクラウスさんにぐるぐるやってもらってない」

「僕も! もう一回やってほしい」

「鳥さんもっかい飛ばして!!」

子供達はすっかりクラウス達に打ち解けたのか、堅苦しい話し方も忘れて、年相応の子供らしい素直な言動でめいめいに気持ちを訴えている。

微笑ましく思えるその言動も、8人も集まればそれなりに喧しく、スティーブンは思わず顔をしかめた。

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