第16章 Virgin Mary of Hersalem's Lot
アメリアの胸中などクラウスは知る由もなかった。
そしてまたアメリアも同じく、クラウスの胸中を慮る事は出来なかった。
どちらが悪いわけでもなく、ただ互いの立場の違いゆえに生まれた小さなひずみだった。
「──戻らないと」
言って立ち上がったアメリアに続いて、クラウスも子供達のいる病室へと向かった。
「アメリア、大丈夫?」
部屋に戻るなり、ハンナが心配そうな顔でアメリアの元に駆け寄ってくる。
「心配かけてごめんね。大丈夫よ」
にっこりと微笑むアメリアだったが、ハンナや他の子供達はその笑みが心からのものかどうか確かめるようにじぃっと彼女の顔を見つめている。
「あら、野菜が残っているわよハンナ。最後まできちんと食べなくちゃ」
「……うん」
まるで母親のような口ぶりのアメリアに、彼女が子供達の中でどういう存在だったか分かるようだった。
ハンナを始め、子供達はみなアメリアより年下の子供達ばかりだ。
自然と彼女が母親代わりになったのも想像に難くない。
しぶしぶ野菜を口に運びながら、ハンナは横目でちらりとアメリアの様子をうかがっている。
フォークに刺さったくし形に切られたトマトを口に運ぶと、アメリアはひとかじりして、ゆっくりと咀嚼し始めた。
しゃくしゃくと音が聞こえなくなるまで咀嚼した後、アメリアの喉が動いた。
細かく刻まれたトマトは、するりと彼女の喉を通り抜け、胃の中へと向かっていく。
ほうっと、ため息が聞こえる。
アメリアはもちろん、彼女の様子をじっと見守っていたクラウスからも、ため息が漏れ出ていた。
「さっき部屋飛び出して行った時も思ったけど……クラっち、貴方随分と彼女の事心配しているのね」
K・Kの言葉に、何故かクラウスはビクリと大仰な反応をする。
その反応に何かを感じ取ったK・Kの顔がニヤニヤとしだす。
「あら、あらあらあら。そうなの?」
「な、なんだろうかK・K。その……妙な笑みは」
「いいえ~? いいのよ、貴方も人の子だものね。そう言う事があっても不思議じゃないわ。うん、私は応援するわよ」
「??? すまない、話が見えないのだが」
「いいのよ、いいのよ。こっちの話っ」
「???」