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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第16章 Virgin Mary of Hersalem's Lot



「……何か、条件があるのかもしれないな」

「条件……ですか」

「たとえば、時間の経過が関係しているとは考えられないだろうか」

「キスをしてすぐに口にしないと駄目だという事でしょうか」

「そうかもしれない。何も根拠はないが……もう一度、試してみるかね?」

もう一度、“儀式”を行う。

クラウスの提案に、アメリアは困惑の色を浮かべている。

何も根拠のないまま儀式を行って、また先ほどのように激しく嘔吐してしまったら──彼女が躊躇するのも無理もない話だ。

そんな事、考えずともすぐに分かる事だというのに。
何故軽々しくそんな提案をしてしまったのだろう。

クラウスは勝手に口をついて出た言葉に自分で驚きつつ、アメリアに対して申し訳ない気持ちになっていた。

「──すまない、苦しい思いをするのは君だというのに軽率な発言だった。やはり一度ミス・エステヴェスに相談を……」

「いえ、もう一度お願いします。ミスタ・クラウス」

立ち上がろうとするクラウスを、またアメリアの手が引き止める。
掴まれた腕が異様に熱く感じる。

その熱は、クラウスの体温の高さだけが原因ではなさそうだった。
しかしその熱の正体に、クラウスはまだ気付けないでいた。


「しかし、もしまた先ほどのように」

「そうなったらそうなった時です。……昨日はうまくいったのですから、今日だってうまくいくはずです。早く戻らないと、あの子達に心配をかけてしまいますから……もう一度、お願いできませんか」

「……承知した」

あまり長い時間病室を離れていては、心配した誰かが探しに来てしまうかもしれない。
ツェッドや他の大人ならばともかく、子供達には子細を説明することは憚られた。

クラウスはアメリアに向き直り、そっと彼女の両肩を掴んだ。

濃い影がアメリアの顔に落ちる。

軽く触れるだけの口づけから、すぐに濃厚な口づけへと変わった。

時間がない、というのが頭にあるからだろうか。
クラウスもアメリアも、互いを求める熱は先ほどにも増してほとばしっている。

絡み合う舌と舌の感触に、クラウスの首筋をゾクゾクと何かが走った。
それに気づいているのかいないのか、アメリアがゆっくりとクラウスの首に腕をまわし、指先で首筋をなぞり始める。

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