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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第16章 Virgin Mary of Hersalem's Lot



「昨日は、食事を取れていたようですよ」

「本当に? 嘘ついてないですか?」

三つ編みの少女が、ツェッドに疑いの目を向けた。

「つきませんよ。そんな嘘ついて何になるっていうんです」

「それは、分からないけど……」

言葉尻を濁したまま、三つ編みの少女は俯いてしまった。

子供達はまだどこかツェッドを信用しきれていないのか、ツェッドの言葉を丸ごと信じようとはしていないようだった。


そう簡単に、人を信じられなくなってしまっているのかもしれない。
子供達の今までの境遇を思えば、それも頷ける話だ。

それでも、安易に子供達を二人の元に向かわせるわけにはいかない。

子供達に信じてもらえるような根拠は何一つなかったが、それでもツェッドは真摯に子供達に言葉をかけた。
その真剣な思いが伝わるように。

「君達がアメリアさんの事を大事に思っているように、僕達も彼女の事を大事に思っています。僕らは、彼女の事も、君達の事も守る為にここにいるんです」

ツェッドの目は人の目とは違う。
人類(ヒューマ)のような白目や瞳孔はなく、あるのはただ薄いクリーム色の眼球だけ。

けれど不思議と、今ツェッドが真剣な眼差しをしていると、子供達には分かった。


「アメリアさんはまたここに戻ってきますから。今は、食事を続けましょう」

今度はツェッドの言葉に横やりを入れる者は誰一人おらず、子供達は納得したかのように食事を再開しだした。


「いっちょ前になんかカッコいい事いってやがる、魚類が」

「またそういう事言って……」

レオナルドがザップに冷ややかな目をよこすと、ザップのズボンから電話の着信音が流れ出した。

「おっ!」

スマホの画面を見るなり歓喜の声を上げて、ザップはすぐさま電話に出る。
そのまま病室の外へ出て行ったかと思うと、ひょっこり顔をのぞかせてウィンクをして見せた。

「ワリィ、野暮用出来たわ。お疲れっした」

上機嫌でどこかへ向かうザップの後ろ姿に、レオナルドとツェッド、K・Kは顔を見合わせた。


「あれは完全に女性絡みですね」

「そうですね」

「ザップっちらしいわね」


普段ならばザップの女癖の悪さに辟易するところだったが、今回ばかりは彼が女性に目がなくて助かったと一人思うツェッドであった。


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