第16章 Virgin Mary of Hersalem's Lot
クラウスの言葉にこくりと頷いて、ハンナはまたスープに口をつける。
ハンナが二口目のスープを喉に流し込んだところで、横のアメリアが突然立ち上がり、口元を抑えたまま病室を飛び出していった。
何事かと驚いた子供達は病室の入り口を凝視する。するとアメリアの後を追って急いでクラウスも病室を出て行った。
「なんだぁ?」
突然部屋を飛び出して行った二人に、ザップが怪訝な顔で首をひねる。
“儀式”は先ほど行われていたはず──朝から上司のあられもない姿を見てしまったツェッドは一人、これから自分がどう動くのが正解なのか高速で考え始めていた。
口元を抑えて部屋を飛び出していったアメリアの姿は、“儀式”が成功していなかったことを示している。
となれば、二人が再び“儀式”を試みる可能性は高いだろう。
アメリアがクラウスとのキスをしなければ食事を取れない、という事実を知っているのは、この場においてはツェッドしかいない。
「彼女大丈夫かしら」と心配するK・Kも、「病院のメシはマズイからな」と悪態をつく兄弟子のザップも、果ては神々の義眼を持つレオナルドでさえ、アメリアの特異な“儀式”を知らない。
(下手にあの二人の後を追われると面倒な事になりそうだ──特にこの人に知られたら、絶対に、ぜぇったいに厄介な事になる──!!)
ツェッドの視線は、銀髪の頭に注がれていた。
自分でさえその事実に驚愕し、すぐに受け入れることが出来なかったというのに、この銀髪頭にあの事実を知られたら、どうなる事か。普段の彼の素行を鑑みれば、ゾッとしないはずがなかった。
他の者を──特にザップを──あの二人のそばに近付けてはいけない。
ツェッドの目は使命に燃えていた。
心配からか、クラウスと同じようにアメリアの後を追おうとする子供を見つけ、ツェッドは慌てて引き止めた。
「大丈夫、クラウスさんがついているから。君達は食事を続けて」
「でも!」
「アメリアさんも、君達に心配をかけまいと出て行ったんだと思います。彼女の意思を汲んであげてください」
「……アメリア、やっぱりイアンがいなくちゃ、ご飯食べられないんじゃないのかな……」
スープに目を落としたまま、悲しそうな声でハンナが言う。