第16章 Virgin Mary of Hersalem's Lot
クラウスに言われて、自分もまだ朝食をとっていなかったことをアメリアは思い出した。
子供達は二人のやり取りを見て、不思議そうな顔をした。
「アメリア、イアンがいなくてもご飯食べられるようになったの?」
ハンナに問われ、アメリアは一瞬戸惑ったものの、ええ、と頷いた。
「良かったね!! 一人でも食べられるようになったんだ!」
無邪気に笑顔を見せるハンナに、アメリアはなんと言ったらよいのか分からなかった。
イアンがいなくても食べられるのは間違いなかったが、あの“儀式”が無ければ食事は出来ない。
けれどアメリアはつい先ほどクラウスと熱い口づけを交わしたばかりだ。
“儀式”のことを子供達に知られる心配は今のところはない。
子供達に余計な心配をかけまいと、アメリアはただ笑みを浮かべた。
食事の配膳がなされると、子供達は一斉に胸の前で手を組み始めた。
そして皆、アメリアの方へ視線を向ける。
アメリアは視線を子供達に一巡させると、静かに目を閉じて他の子供達と同じように胸の前で手を組んだ。
「父なる神よ、暗き闇の間私達をお守り下さり感謝しております。この一口一口が、私達に力を与えますよう。神の祝福をこの場の全てのものにお与えください。イエス様のお名前に寄ってお祈りいたします。アーメン」
声をそろえて、子供達とアメリアは食事の前に、神に祈りを捧げた。
それはきっと、教会での日常だったのだろう。
子供達は当たり前のように祈りを捧げると、それぞれ食事を口にし始めた。
幸いだったのは、アメリアのように“儀式”が無ければ食事が出来ない者が他にいないことだった。
スティーブンがこの事を知れば、アメリアが必要とする“儀式”は彼女の嘘なのではないかと、訝しんだことだろう。
「美味しい!」
ハンナがスープを一口飲んだところで声を上げた。
子供らしい正直な反応に、ハンナが嬉しそうに食事をする姿にクラウスやK・Kは目を細めていた。
「……ミスタ・クラウスやミス・K・Kは召し上がられないのですか?」
じっと見つめられていたハンナは、少し警戒しながらも、クラウス達に言葉を投げかけた。
「我々は後程頂く。気にせず食べたまえ」