第16章 Virgin Mary of Hersalem's Lot
イアンもリアも、子供達の中では年かさだ。
特にイアンの力が無ければ、子供達は食料を確保することも難しい。
けれど、イアンも子供達の事は心配だったのだろう。
先ほどクラウスが口にしていたように、良心があったからこそ部屋の幻術を解いて出て行ったのだと、アメリアも思った。
世の中への復讐にとりつかれていても、仲間をそのまま見捨てることは出来なかったのだろう。
「アメリア、私達これからどうなるの? またあの仕事しないといけない?」
茶色の癖毛を三つ編みに結った少女がクラウス達をちらりと見やり、不安そうに尋ねる。
あの仕事──教会で行われていた、体を売る仕事。
アメリアと同じように、他の子供達もいまだ教会の呪縛から逃れられていない様子だった。
自分達が生きていくためには、体を売らなければ生きていけないと、刻み込まれているようにクラウスには見えた。
「君達は教育を受け、愛情を受けて生活する権利がある。君達が皆、日々平穏に暮らせるように我々が手を貸そう。何も心配することはない。安心したまえ」
クラウスの力強い言葉に、子供達は安堵の表情を浮かべた。
威圧感のあるクラウスだったが、こういう場合においてはその威圧感はプラスに働いた。
彼が口にすると、説得力が増す。
無論クラウスは有言実行の男である。
本人も必ず実行するという意思の下で発言しているわけで、それが彼の言葉に説得力を持たせてもいた。
「……お腹、すいた」
空気を一変させるような言葉を呟いたのは、いまだアメリアに抱き着いたままのハンナだった。
彼女のお腹の虫も盛大に鳴り響き、クラウスの言葉に安堵した他の子供達も同じように空腹を訴え始める。
「食事、出来ていなかったの?」
「イアンもリアもいなくなちゃったから。冷蔵庫にはミルクしかなかったし……」
アメリアが病院に連れてこられてから数日が経っている。
その間子供達はほとんど何も口にしていなかったことになる。
「すぐ食事の手配をしよう。少し待っていたまえ。……ミス・アメリア、君の食事もここに運んでくるとしよう」
「ありがとうございます、ミスタ・クラウス」