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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第16章 Virgin Mary of Hersalem's Lot



慌てて立ち上がったミスタ・クラウスは、そのまま入り口で固まったままのミスタ・オブライエンの元に向かわれていった。

“儀式”の事を把握しているのは、ミス・エステヴェスを除けばミスタ・スターフェイズとロウ警部補だけだったはず。

事情を知らないミスタ・オブライエンからすれば、朝からとんでもないものを見てしまったと思われただろう。

病室の外でミスタ・クラウスが懸命に弁明されている間も、私の体は昂ったままだった。

そっと指でなぞった唇にはまだミスタ・クラウスの感触がしっかりと残っている。

体を巡る抑えきれない欲望を、どうにか鎮めようとぎゅっと自分の体を抱きしめた。

“対価”が必要なくなるまで、この疼きに耐えなければならない。

それは、ある意味拷問にも等しい。

ミスタ・クラウスが望む望まないにかかわらず、私は口づけのたびに彼の弱点を暴こうと必死になってしまう。
たとえ私の手の中に陥落させたとしても、彼の気持ちまでがこちらに傾くことはないのに、それでも体は自然とミスタ・クラウスを快楽へ導こうと動いてしまう。

この身に染みついてしまっている、教会での経験。
あの場から逃げられれば離れられる、変われると思ったのは間違いだった。

たとえどこにいても、私は変わることがないのだ。
この体に刻まれた記憶のひとつひとつを消し去ることは出来ないのだ。

まるで呪いのよう。
決別したい過去の事、だけどそう簡単に逃れられるわけがない。



一人物思いにふけっていたら、ガラリ、と病室の戸が開き、ミスタ・クラウスの顔がのぞいた。


「……ミス・アメリア。いい報せがある」



*****************



「アメリア!!」


アメリアが病室の扉から顔をのぞかせると、中から彼女の名を呼ぶ声がいくつも上がった。

アメリアが部屋に足を踏み入れると、わっと彼女の周りに子供達の輪が出来上がる。
とりわけ一番年下の女の子は、アメリアに抱き着いて離れなかった。

「良かった、みんな無事で……」

微かに声を震わせて、アメリアは集まってきた子供達の顔を順繰りに見回す。
どの子も外見上は健康に問題はなさそうな様子だった。

「ハンナ、会いたかったわ」

アメリアは抱き着いたまま顔をうずめてすすり泣いている最年少のハンナに声をかけた。

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