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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第16章 Virgin Mary of Hersalem's Lot



唇が離れた時に、そっと目を開けると。

熱を帯びたミスタ・クラウスの瞳が目に飛び込んできた。

その眼差しに心の全てを奪われたような気がして、胸の奥がとても苦しくなった。

しばらく私を見つめていたから、このまま“儀式”は終わるのだと思ったのだけれど、ミスタ・クラウスは私を支える腕に力をこめて引き寄せ、離そうとなさらない。

──もう一度、熱い口づけが欲しい。

私のその密かな願いが通じたのか、ミスタ・クラウスの顔が近づいて来る。

今度は、私も自分から身を寄せた。
彼の胸に置いていた手を、静かに首に回す。

少しだけ力を入れれば、より近くなったミスタ・クラウスの体と私の体は簡単に密着した。

ぴたりとくっついた磁石のように、お互いの熱を感じられるこの距離が心地よい。

今度は、ミスタ・クラウスは遠慮なしに始めから口内深くに押し入ってくる。

舌をすぼめて迎え入れ、彼の舌の裏側を軽くなぞってみると、ミスタ・クラウスの体はビクリと反応し、艶気のある声を漏らされた。

私の体の奥から湧き出たものが、ぞくぞくと背中から頭の方へ駆けあがる。

今まで何人もの男性を陥落させてきた私にかかれば、ミスタ・クラウスを快楽の渦に引き込むことも容易いだろう。

いけないと思いつつも、もっと彼の欲情を煽りたくなって、逃げ出そうとする彼を執拗に追いかけた。

「…っ、はぁっ…」

艶めいたミスタ・クラウスの吐息がまたぞくぞくと私の中の何かを刺激する。

何が彼の欲を押し上げるのか、探るように舌を動かした矢先、ミスタ・クラウスはぐいと私の体を引き離した。

これ以上は耐えきれない──そんな表情をされた余裕のないミスタ・クラウスの様子に、私の奥底の欲望はとめどなくあふれてくる。

互いを名残惜しく思うのか、離れた唇と唇を繋ぐように銀の糸が、つうと伸びていた。


「おはようご……」


熱っぽい目で見つめ合っていた私達の空気を破るように、突然ガラガラと病室の扉が開かれたかと思うと、現れた人物は挨拶をしかけてそのまま固まってしまった。

振り返ったミスタ・クラウスは、その固まったままの人物を視認するなり、見るからに慌てふためきだした。


「……!! ツェッド、これには深い、深い訳があって……!」


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