第16章 Virgin Mary of Hersalem's Lot
「……!」
病室には私の他に誰もいなかったけれど、思わず胸元をタオルで隠した。
ミスタ・クラウスは何も意地で仰ったわけではなかったのだ。
別に裸を見られたわけではない。
それ以前に私は自分から彼の前でガウンを脱ぎ捨てたことだってあるというのに。
分かっている。
あの時とは、私の心境が全く違うから、だからこんなに今恥ずかしく思うのだと、分かっている。
替えの病衣を持ってきてくださったミスタ・クラウスにお礼を述べつつも、恥ずかしさからそのお顔をはっきりと見ることは出来なかった。
そのまま身支度を終え、ベッドの淵に腰を下ろす。
ミスタ・クラウスが用意してくださった朝食は脇のテーブルへすでにセッティングされていた。
あたたかな湯気をたてるカップスープのいい匂いが食欲を誘う。
小さく声をあげた私のお腹に、ミスタ・クラウスは優し気な笑みを浮かべている。
私の隣にゆっくりとミスタ・クラウスが腰を下ろすと、少しだけベッドの軋む音がした。
彼の体重の分だけ沈んだベッドは、私をミスタ・クラウスの元へ引き寄せる。
自然と傾いた体がミスタ・クラウスの体に近づき、彼によりかかる姿勢になった。
ミスタ・クラウスは片腕で私を支え、もう片方の手が私の頬をそっと撫でる。
大きな指がゆっくりと髪を撫でるのと同時に耳をなぞり、指先がするすると首筋を這っていく。
くすぐったいのにどこか心地よいその感触に目を伏せると、ミスタ・クラウスの親指が顎の下に入り、くい、と私の顔を上に向かせた。
すでに間近に迫っていたミスタ・クラウスの顔。
眼鏡の奥の瞳をのぞきこむ。
エメラルドグリーンの輝きがより鮮明に見え、その美しさに心を奪われていると、さらにぐっと彼が近づき、そのまま唇を重ねてきた。
始めは、優しく触れるだけのキス。
二度目は少し長めの、やはり触れるだけのキス。
三度目にようやく、彼は私の口内に侵入し始める。
ためらいがちに、探るように、舌先の挨拶から始まる三度目のキス。
気持ちを悟られまいと、一度は彼の舌から逃げ出すものの、追ってくる彼からはそう長くは逃げられない。
そのうちに堪らなくなって、私も彼のものを追い出してしまう。
ミスタ・クラウスはそれに応えるように、より深く強く反応を返してくださる。
少しずつ、漏れる息が荒くなる。
