
第16章 Virgin Mary of Hersalem's Lot

「ありがとうございます、ミスタ・クラウス」
「うむ。……さて、身支度を済ませたら朝食にしよう」
朝食。
その単語を聞くと、また気恥しさが一気にこみ上げてくる。
昨日、初めてミスタ・クラウスとキスをして、水だけでなく食事も取る事が出来た。
カウンセリングは順調な滑り出しだとミス・エステヴェスもミスタ・クラウスも喜んでおられた。
けれど、私は手放しで喜べなかった。
“対価”無しで食事がとれるようになるその日まで、私はミスタ・クラウスと食事前に毎回キスをしなければならないからだ。
ミスタ・クラウスとのキスが嫌なわけではないのだけれど……回数を重ねれば重ねるほど私は彼への気持ちを募らせてしまいそうだし、かといってミスタ・クラウスはほぼ義務のような形でキスをして下さっているようなものだから、その落差を思うと胸が痛んで仕方ないのだ。
こうやって同じ空間にいられるだけでも幸せに思えるのに、ミスタ・クラウスの手が触れ、あまつさえキスまで出来るなんて。
それでもそこに気持ちはないのだと、私は毎度自分に言い聞かせる。
決して、気持ちを悟られてはいけない。
私の邪な思いは、彼の純粋な厚意を汚してしまうから。
そう思ってはいるものの、ミスタ・クラウスの顔が近づけば、私の心臓はうるさくなっていく。
そして慣らされた体はすぐに彼の奥深くまで求め始めてしまう。
体の奥から湧き出てくる疼きを感じ取られないように、あまり積極的にこちらから仕掛けてはいけないのだと、頭では理解しているつもりなのだけれど……
これからまたあの“儀式”をするのだと考えただけで体が火照ってくるのはどうしようもないのだろうか。
顔まで熱くなってきた気がして、勢いよく顔を洗った。
飛び散る水しぶきは袖も、胸元も濡らしてしまう。
それでもかまわず洗顔を続けた。
ぐっしょりと濡れて張り付く病衣に気づいたミスタ・クラウスが、横から真っ白なタオルを手渡してくださった。
「着替えを持ってこよう」
「拭けば、大丈夫です」
「……着替えたまえ」
ついと目をそらしてミスタ・クラウスは着替えを取りに行かれてしまった。
また彼の強情なところが顔を出したのかと思ったけれど、濡れた胸元を拭こうとした時に理由が分かった。
じっとりと濡れた病衣はその下に隠した胸のラインをくっきと浮き上がらせていた。
