第15章 対価の代用
またキスをなさるおつもりなのだろうか。
私の心臓は早鐘を打ち続けていて、先ほどのキスだけでもう十分だと思うのに、顎を支える親指に加え、今度は反対の手が私の腰に回されてゆく。
先ほどよりもずっと近くなったその距離に、ミスタ・クラウスの体の熱まで感じられそうだった。
先ほどよりも強く、ぐいと顎を持ち上げられる。
同じように腰に回された手の力も強くなり、いよいよ逃げられない。
眼前に迫ったミスタ・クラウスの顔にギュッと目をつむる。
視界が閉ざされた分、他の感覚が研ぎ澄まされていくようで、触れた唇の熱が先ほどよりも熱く感じた。
そのすぐ後に、ちろり、と舌先に何かが触れる。
遠慮がちに触れたそれは、少しずつ、けれど確実に私の口内に深く侵入してきていた。
私の舌先で動いていたかと思うと、ぬるりと舌の上を滑り、上顎を撫でる。
一度口内を出て行ったかと思えば、またすぐに生暖かいものが差し込まれる。
最初のうちは音もしなかったはずなのに、次第に淫靡な水音が響き始めた。
体の奥がじわじわと熱を持ち始める。
思わずもぞもぞと体を動かすと、腰に回されたミスタ・クラウスの手がお互いの体を結び付けようとするかのように、強い力で私の体を引き寄せた。
舌を抜き差しする度にミスタ・クラウスは角度を変えて私に口付けを続け、そのうち私にかぶりついてしまうのではないかと思うほど、口づけは深く激しくなっていった。
歯列をなぞるミスタ・クラウスの舌を追い、舌先で彼のものを突くと、それに答えるように、舌先がこちらに向いて握手でもするかのように絡み合った。
──もっと、もっと欲しい。
体の奥から、自然とそんな欲求がこみ上げてくる。
これが治療の一環である事も忘れ、私の体はただミスタ・クラウスを求めていた。
息をすることすら忘れるような熱く長いキスは、突然終わりを迎えた。
ミスタ・クラウスが私の腕を掴んで、体を離されたのだ。
「……っ」
ミスタ・クラウスも私も、荒い息のまま、しばし見つめ合う。
そのうち、ふい、とミスタ・クラウスの方が先に顔をそらされた。
顔をそらされてしまったから、その表情は伺い知ることは出来なかったけれど、こちらを向いている耳は真っ赤になっていた。