第15章 対価の代用
ゆっくりと、ミスタ・クラウスが頷く。
私の人柄に惹かれたとは、どういうことだろう。
「ミス・アメリア、君は他人の為に己を犠牲にすることを厭わない。私は君のその生き方を大いに尊敬し、また共感している。そんな君だからこそ、私は君の力になりたいと思う。……それでは、君は納得しないだろうか」
「そんな……私は貴方が仰るようなそんな立派な人間では、ありません」
私は、非力だ。
神に祈るしかしてこなかった、家族である兄さんも止められなかった、何の力もない人間だ。
ミスタ・クラウスの目は、まるで別の私を見ているようで、私には彼の言うように自分の事が尊敬されるような人間だとは全く思えない。
「そんなことはない。君は、幼い子供を守る為に、自分の身を盾にした。私の傷の為に、自分の服を躊躇なく引き裂いた」
「たった、それだけの事です」
「その“たったそれだけの事”が出来る人間が、この世にどれほどいるだろうか。君は間違いなく、“善き人”だ。もっと自分に自信を持ち給え」
「……ミスタ・クラウスのように、世界を救ったりは出来なくとも?」
「君は幼い子の命を救った。列車事故の時も、君が行動しなければもっと大勢の人の命が失われていただろう。君は十分に“世界を救って”いるのだよ」
彼と会話を交わしていると、なんだかうまく丸め込まれているような気もしたけれど、その目と声音は確かにミスタ・クラウスが本心からそう思われているのだと私に伝えていた。
「ミスタ・クラウスにそう言われると、そんな気がしてきます。不思議ですけれど……」
「私の言葉が無くとも、君は確かに善き人であり、人々を救っている。それは純然たる事実だ」
力強く、ミスタ・クラウスが仰った。
私は私のままで、誰かの役に立っている。
そのままの私で良いのだと、自分自身を認めていただけた気がして、心が軽くなるのが分かった。
言葉一つで単純な人間だと自分でも思うけれど、ミスタ・クラウスのお言葉は私にとって生きる糧に等しいくらいのものだった。
「……だからこそ、私は君を苦しみから救いたいのだ。私を生理的に受け付けないというのであれば、また他の手段を考えよう」
「そんな事ありません!! むしろ……っ、いえ、その……」
反射的にとんでもないことを口にしそうになった。