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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第15章 対価の代用



そこまでミスタ・クラウスに頼るのも、とても申し訳ない気持ちになるけれど。

「センシティブな問題に関わるのは十分承知しています。選択権は貴方にあるわ。私は選択肢のひとつとしてこの方法を提案するだけ」

「……」

暗示は解きたい。

いつまでも教会の事に囚われている自分が嫌だし、このまま死を待つのも嫌だと思う。

だけど自分の為だけに、ミスタ・クラウスを巻き込んでよいのか判断がつかない。

優しいお方だから、私が望めばきっと手を差し伸べて下さるでしょうけれど。

「ミスタ・クラウスと直接話をしてみる? 貴方の思ってることをぶつけてみれば、答えが見えてくるんじゃないかしら」

このまま悶々と考え続けても、確かに答えは出なさそうだ。

ミス・エステヴェスの提案にのり、私はミスタ・クラウスと代替案について話し合うことにした。



***************


ミス・エステヴェスがミスタ・クラウスを診察室に呼び入れて下さり、彼は私の真向かいの丸椅子に腰を下ろした。

大きな身体のミスタ・クラウスには椅子が小さすぎるのか、金具の軋む音が診察室に響く。

「ミスタ・クラウス。ミス・エステヴェスからお話を伺いました。……それで、その、カウンセリングの一環として、貴方とキスをするというお話なのですが……」

そこまで言いかけると、対面したミスタ・クラウスの目が、一瞬大きく見開かれた。

そして咳ばらいをひとつして、ああ、と小さく頷かれた。

やはり、内容が内容だけに、ミスタ・クラウスにも少し気恥しさがあるように見えた。

「ミスタ・クラウスは……どうして協力してくださるのですか? 私個人の問題で、事件解決に必要でもなんでもないでしょう? ……どうして、そこまで私を助けて下さるのか、教えていただけますか」

私がそう尋ねると、ミスタ・クラウスは少しだけ考える表情になり、しばし手元を見つめておられた。

そして、ゆっくりと顔を上げて、一呼吸置いたのちに話された。

「──君が、苦しんでいる姿を見るのは忍びない。私に出来ることなら、力になりたいと思ったからだ」

「それは、同情という事でしょうか」

「…君の境遇を知り、憐憫の情を抱いたのは確かだ。しかし私が君を助けたいと思ったのは、同情よりも君の人柄に惹かれた事が大きな理由だ」

「私の……人柄、ですか?」

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