第15章 対価の代用
そこまでミスタ・クラウスに頼るのも、とても申し訳ない気持ちになるけれど。
「センシティブな問題に関わるのは十分承知しています。選択権は貴方にあるわ。私は選択肢のひとつとしてこの方法を提案するだけ」
「……」
暗示は解きたい。
いつまでも教会の事に囚われている自分が嫌だし、このまま死を待つのも嫌だと思う。
だけど自分の為だけに、ミスタ・クラウスを巻き込んでよいのか判断がつかない。
優しいお方だから、私が望めばきっと手を差し伸べて下さるでしょうけれど。
「ミスタ・クラウスと直接話をしてみる? 貴方の思ってることをぶつけてみれば、答えが見えてくるんじゃないかしら」
このまま悶々と考え続けても、確かに答えは出なさそうだ。
ミス・エステヴェスの提案にのり、私はミスタ・クラウスと代替案について話し合うことにした。
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ミス・エステヴェスがミスタ・クラウスを診察室に呼び入れて下さり、彼は私の真向かいの丸椅子に腰を下ろした。
大きな身体のミスタ・クラウスには椅子が小さすぎるのか、金具の軋む音が診察室に響く。
「ミスタ・クラウス。ミス・エステヴェスからお話を伺いました。……それで、その、カウンセリングの一環として、貴方とキスをするというお話なのですが……」
そこまで言いかけると、対面したミスタ・クラウスの目が、一瞬大きく見開かれた。
そして咳ばらいをひとつして、ああ、と小さく頷かれた。
やはり、内容が内容だけに、ミスタ・クラウスにも少し気恥しさがあるように見えた。
「ミスタ・クラウスは……どうして協力してくださるのですか? 私個人の問題で、事件解決に必要でもなんでもないでしょう? ……どうして、そこまで私を助けて下さるのか、教えていただけますか」
私がそう尋ねると、ミスタ・クラウスは少しだけ考える表情になり、しばし手元を見つめておられた。
そして、ゆっくりと顔を上げて、一呼吸置いたのちに話された。
「──君が、苦しんでいる姿を見るのは忍びない。私に出来ることなら、力になりたいと思ったからだ」
「それは、同情という事でしょうか」
「…君の境遇を知り、憐憫の情を抱いたのは確かだ。しかし私が君を助けたいと思ったのは、同情よりも君の人柄に惹かれた事が大きな理由だ」
「私の……人柄、ですか?」
