第14章 尋問の時間
「──たとえ、君が造られたものだったとしても。君が歩んできた道は、君だけのものだ」
ミスタ・クラウスは、静かにそう仰った。
頭の中はぐちゃぐちゃで、寄る辺なく何かに縋りたい一心の私に、ミスタ・クラウスはそっと寄り添うように、そのお心を示してくださった。
私は、“私”ではないかもしれない。
けれど、それで私という存在が消えるわけではないのだと、ミスタ・クラウスは励ましてくださっているのだろう。
「ありがとうございます、ミスタ・クラウス」
不思議と、それまでぐらついていた足元が安定を取り戻したようだった。
私を真っ赤な十字架で救って下さったあの時のように、ミスタ・クラウスの存在は私の中でとても大きなものになっていった。
「…アンタ自身も自分の事がよく分からねぇみてぇだな。兄貴の事もある、このままアンタを解放するわけにはいかねぇって事は、分かるよな?」
「はい」
「今後のアンタの処遇についてだが……」
ロウ警部補が言葉を続けようとすると、突然ミスタ・クラウスが立ち上がって警部補の言葉を遮った。
「待ってくれ、警部補。彼女の身は我々に預からせてもらえないだろうか」
「はぁ? 警察の監視下に置くに決まってるだろう。重要参考人だぞ」
「それは理解している。しかし、彼女には特殊な事情がある。監視が必要ならば我々が責任を持って行う。どうか任せていただけないだろうか」
──特殊な事情。
たぶん、私が“対価”無しには食事が出来ない事だろう。
だけど、それはミス・エステヴェスのカウンセリングを受けて、徐々に暗示を解いていくというお話だったはず。
しばらく入院して、その間は点滴で栄養など補給すると、昨日決まったはずだ。
そうなれば、別に警察が私を見張ったって、ライブラの方々が私を見張ったって、どちらも変わりはないはずなのに。
どうしてミスタ・クラウスはそこまで頑なに私の身を預かろうとなさるのだろう。
「特殊な事情? なんだそれは」
「……少し、いいかね」
「あ?」
ミスタ・クラウスは警部補の背を押して病室の外へと連れ出して行かれた。