第14章 尋問の時間
兄さんと遊んだ記憶も、家の家具の配置も、殴りつけてくる父親の顔も、泣いて逃げる母親の姿も、鮮明に覚えている。
そんなクローンを造るような施設の記憶なんて、どこにも──
「……っ?」
一瞬、淡い緑の液体の中に浮かぶ自分の両腕の映像が見えた気がした。
ゴボゴボと音がして、気泡がいくつも上に上がっていく。
私は、その液体の中で漂っている──?
「……今のは……」
「ミス・アメリア、どうしたのかね?」
「あ、いえ……」
思わず自分の両腕を確認する。
見慣れた自分の腕がそこにはあるだけだ。
先ほど一瞬見えた映像は、きっと警部補たちにいきなりクローンだなんて話を聞かされたから、私の頭が脳内で作り上げたものに違いない。
そうでなければ、あの映像は……。
「……記録では10歳で亡くなってるが、アンタ今いくつだ」
警部補が手元の資料に目を落としながら尋ねてきた。
「16、だと思います」
「思います……?」
「……はい」
あらためて自分の年齢を問われると、自信がなかった。
誕生日を祝う事なんてなかったし、いつが自分の誕生日かも知らない。
ただ日々を生きるのに必死で、自分の年をきちんと数えたことなんて、無かったから。
「じゃあ10歳から今までの記憶は? 6年間、どこで何をしていた」
「……2年くらい前、牧師様に拾われてからの記憶はありますが……それ以前の、記憶は……」
じわり、と恐怖が侵食してくるようだった。
10歳までの記憶と、少し飛んで2年前の記憶はある。
けれどその間の記憶が、無い。
そんなはずはないと必死に思い出そうとするけれど、ひとつも思い出は蘇ってこなかった。
じわり、じわりと。
自分自身が何なのか分からなくなる恐怖が迫ってくる。
どうして4年間の記憶が無いのだろう。
4年。決して短くはない。
鮮明でなくとも、4年もあれば何かひとつくらい覚えていてもおかしくはないはずなのに。
「……私は、“私”ではないのでしょうか……?」
おかしな言葉だと分かっていても、そう口にせずにはいられなかった。
自分が何者なのか、アメリア・サンチェスだと信じて疑わなかった今までと違い、ぐらぐらと足元が崩れていきそうな、自分を支えるものがなくなっていく気がして、とても怖かった。