第14章 尋問の時間
「32番街の裏路地をいったところです。詳しい住所は分かりません」
「このあたりだろうか」
ミスタ・クラウスが携帯の画面を私に差し出す。
隠れ家の近くの風景が、その画面には映し出されていた。
「ええ、ここの店の横を通り過ぎたあたりです」
画面を指さして答えると、ミスタ・クラウスはすぐさま誰かにその情報を送ったようだった。
あの兄さんが大人しく捕まるとは思えないけれど、この人達ならきっと兄さん達を見つけ出すだろう。
けれど、兄さんが抵抗をしたら。
きっと無事では済まない。
「ミスタ・クラウス。お願いします、どうか兄さんを殺さないでください」
どんなにどん底の状況でも、お互いを励まし合って今日まで生きてきた、大事な家族。
たとえ犯罪者と糾弾されようとも、私にとっては唯一の家族だ。
「ああ──」
「殺しはしないさ」
ミスタ・クラウスの言葉に、ミスタ・スターフェイズが言葉をかぶせてきた。
殺しはしない。
けれどその言葉には何か含みがあるように思えてならない。
ミスタ・スターフェイズの目の奥には、なにかゾッとするようなものが隠されている。
「…それで、結局君のお兄さんは何がしたいのかな。列車事故、異界人の発狂……人を操って何を為そうとしている?」
「兄は復讐だと言っていました」
「復讐?」
「……私達の苦痛も知らずに、安穏と生きる大人達を消し去りたいと。ひいては、この世界を壊すのだと。そう、言っていました」
「それはまた随分と壮大な話だ。……しかし“復讐”というより“八つ当たり”だな、それじゃ」
ミスタ・スターフェイズは肩をすくめた。
確かに、八つ当たりと言われても仕方ない。
事実、兄さんが巻き込んだ街の人達は、私達と何の縁もゆかりもない人ばかりだ。
私達を買っていたお客を襲ったのならまだしも、無関係の人々を傷つけたのなら、そう思われてしまうだろう。
「……それだけ、苦しんでいるのだろう。ミス・アメリア、君達の存在に気づいてやれずにすまなかった。これまで苦しめてきて、本当にすまない」
ミスタ・クラウスが深く頭を下げられた。
私は幾度となく、この方が頭を下げられるところを目にしている。
そのうちのどれも、ミスタ・クラウスに否は無いというのに。
「ミスタ・クラウス、どうかお顔をお上げください」