第13章 痕跡
「…アメリアを牽制するのは君の役目だったはずだろう、リア」
イアンは痛みに顔をしかめながら、リアにそう吐き捨てる。
作戦が失敗したこと、そしてアメリアを置いて逃げてしまったこと、そのどちらもがイアンを苛立たせているのだろう。
リアはイアンの心情を理解しながらも、自分にも言い分があると口を尖らせた。
「そうだけど……だけどあの子、素手でナイフを握ったのよ」
「だからといって手を離すヤツがあるか」
「違うの、あの子がナイフを握った途端、ナイフがものすごく熱くなったの。焼け付くような熱さだったわ。ほら、見てよ」
言ってリアは自分の手のひらをイアンに見せた。
リアの手のひらは、横一線にみみず腫れが出来ている。
そのみみず腫れは、確かにリアの言葉を証明する何よりもの証拠だった。
「……アメリアも、何か力を持ってるということか……?」
「何か聞いてないの? あの子から」
「いや、何も。もし何か力を持っているなら、アメリアが僕に話さないはずがない。きっと、自覚してないんだ」
「まずくない? あの子、あのクラウスって人達に捕まっちゃったでしょ、多分。警察に連れて行かれたりしてたらどうするの? 私達のことだって、きっと話してしまう」
「落ち着け、リア。話したところで、見つけられやしないさ。こっちには幻術使いがいる。僕らを探そうたってそう簡単にはいかないよ」
イアンの強い言葉に、リアは安堵した。
イアンのことを信頼しているのもあったが、何より誰かに大丈夫だと言ってもらわなければ、リアは不安で仕方がなかった。
目の前で氷漬けにされたアメリアの姿を見てしまってから、リアは大きく動揺していた。
イアンには全幅の信頼を置いているものの、自分たちの計画は浅すぎるのではないかと脳裏によぎった一抹の不安が、目に見えて肯定された気がリアはしていた。
自分達が想像しているよりも、この街の人間──大人達は、自分達の一枚も二枚も上手だ。
クラウス以外にも仲間を潜ませていたのが、こちらが何か仕掛けてくると相手に推測されていた、何よりの証拠だ。
「イアン……私達、もっと闘いを挑む相手の事を知るべきだわ」
珍しく慎重な姿勢を見せるリアに、イアンは少なからず驚いていた。