第13章 痕跡
スティーブンとレオナルドが知り合いであることはビビアンも承知していたが、二人だけでこの店に来るのは初めての事だった。
スティーブンは大抵クラウスと一緒だったし、レオナルドはザップかツェッドと一緒に来ることがほとんどだ。
妙なこともあるものだと、ビビアンは騒ぎの中心になったボックス席に向かう二人の背中を見つめていた。
「この席なんだが見えるか」
スティーブンが指さした先のボックス席の前で、レオナルドが糸のように細い目をゆっくりと開くと、彼の眼球は青白く輝き出した。
見た目からして人の物とは異なるその眼は『神々の義眼』と呼ばれる特殊な眼だ。
レオナルドは以前に、リガ=エル=メヌヒュトという異界存在に『神々の義眼』を与えられている。
その眼を使って、レオナルドは幾度となくこの街で起きた事件を解決に導いてきた。
彼には、その眼のおかげで、通常見えないものが『見える』
幻術の類を見破ることはもちろん、今回のように空間に残る人の痕跡を辿ることも可能だ。
そして人の視界をジャックしたり、あるいは他の者の視界と入れ替えたり……と、なんともチートのような彼の眼ではあるものの、あまり使いすぎると熱を持ち眼にヒビが入ってしまうという欠点もある。
ただ使い方を心得ていさえすれば、こんなに役立つ能力はない。
「…うーん……人の出入りが多くてごちゃごちゃしてて……」
ボックス席からゆっくりと視線を動かし、レオナルドは少女のオーラのようなものの痕跡を追う。
店の入り口近くまで歩を進めたものの、そこでレオナルドは首を振ってしまった。
「駄目です。時間が経ってるのもあって、消えちゃってます」
「そうか……」
万能の神々の義眼といえども、何もかもを見通せるわけではなかった。
痕跡は時間が経てば消え、いくらレオナルドの眼をもってしても追う事は不可能だった。
「でもあの子と一緒にいた人物のオーラは特定出来ました。独特の光り方をしてるんで、どこかで見たらすぐ分かります」
「では少年、君にはそのオーラの探索を頼む」
「居所の目星はついてないんですよね?」
レオナルドが不安げに尋ねると、スティーブンはにっこりと笑みを浮かべて見せた。