第13章 痕跡
「…何かあれば言ってください。外出は許可できませんが、出来る限り応えます」
「ありがとうございます、ミスタ・オブライエン。そんなに気を遣われなくて大丈夫ですわ。逃げるつもりもありません。…行くあてなんて、どこにもありませんし」
そう言って悲しそうな顔をするアメリアに、ツェッドは何も言えなかった。
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─ダイアンズダイナー─
店内は、朝の混雑とはまた別の騒々しさに包まれていた。
ビビアンは店内をカウンターからぼうっと眺めている。
店員であるビビアンには何も聞かされていなかったが、どうやら事件の容疑者である人間を、警察やその関係者が店内で張り込みをしていた為に、朝から満席になるほどの混雑ぶりだったようで、その容疑者である少女の身柄が抑えられてからはぱったりと客足が遠のいてしまった。
というより、規制線を張られて店内には警察とその関係者しか出入りが出来ないようになっていた。
ビビアンも退出を求められたのだが、自分の店にいて何が悪いのかと声を上げたところ、現場検証を邪魔しないのを条件に店内にとどまることを許された。
店の前を通り過ぎる人々は店を指さしては何事か囁き合っては、ビビアンの視線に気づいてそそくさと足早に通り過ぎていく。
「ったく、商売あがったりだぜ……」
警察に一日分の売り上げを請求してやろうか。
ビビアンがそんな事を思った時だった。
店の入り口に、人影が見えた。
また新しい鑑識のやつか何かだろう。
一体何をどれだけ調査したら警察は満足して帰ってくれるのか。
そう思ったビビアンだったが、店の入り口に佇む人物はビビアンも見慣れた顔の男だった。
「なんだい、弁償しに来てくれたの?」
険しい顔のビビアンに、店内に足を踏み入れたスーツの男──スティーブンは引きつった笑みを見せた。
「ああ、それもあるけど。少し、現場を見たくてね」
「早く終わらせておくれよ。これじゃ商売にならない」
「これが終わったらすぐにでも撤収させるよ。少しだけ待ってくれ」
スティーブンの後ろに、ビビアンは見慣れた顔があることに気づき、そちらに声をかけた。
「なんだよレオ、君もいたのか」
「こんにちは」