第13章 痕跡
「ミス・エステヴェス、貴方の見解は?」
「私も嘘だとは思いません。患者の挙動を見れば分かります」
ルシアナの力強い目に、スティーブンは若干気圧されそうになった。
──もう少し確実な根拠が欲しいところだが……。
スティーブンは己の中にアメリアに対する猜疑心を押しとどめる選択をした。
これ以上意固地になっても、お互い頑固に張り合うだけで進展がない。
「遅くなりました!」
スティーブン達が声のした方に目をやると、レオナルドとツェッドがこちらにやって来ていた。
ツェッドもライブラメンバーの一人で、半透明の弾力のありそうなアクアグリーン色の体をした、半人半魚の姿をしている人物だ。
大きな目のすぐ上には、一対の触覚が生えており、まるで前髪のようにも見える。
ライブラの中ではメンバー入りして一番日が浅いツェッドであったが、ザップと同じ師匠の下で鍛錬していた彼はすぐに前線で活躍する一人となった。
戦闘能力はほとんどないレオナルドの護衛としてレオナルドに付き添うことも多く、今も別の案件から二人して帰還したところであった。
「レオ、ツェッド。呼び立ててすまない。レオナルド君、早速で悪いのだが彼女に会ってもらえるだろうか」
クラウスの後を追って、レオナルド達はアメリアの病室へと向かった。
「ああ、そのままで構わないミス・アメリア。少しだけ顔を見たら彼らは退出する。気にせず横になっていたまえ」
突然やって来た見知らぬ者達に、アメリアは何事かとベッドから起き上がった。
クラウスの後ろには、スティーブンとはまた違う黒髪の少年と、半魚人のような異界人の姿がある。
黒髪の少年は糸のような目でこちらを見ていたかと思うと、ゆっくりとその目を開いていった。
少年の目は青い輝きを放っている。
虹彩と瞳孔の境目も一見しただけでは分からないほど、瞳全体が青い。
病室の中で少年の目に驚いているのはアメリアだけだった。
後の者はみな、それが普通だと言わんばかりに特に何の反応も見せていない。
──教会の外は、不思議に満ちている。こんな世界を壊そうだなんて、無理な話だわ。
アメリアは自分達の想像の域を軽く超えてくる人々がいることに、改めて兄の計画の無謀さを感じていた。