第13章 痕跡
ギルベルトの見舞いを済ませ、アメリアの病室に戻る途中で、スティーブンは廊下で何やら話し込んでいるクラウスとルシアナの姿を見つけた。
話の内容は聞こえないが、笑顔のルシアナに対してクラウスは驚いたり顔を赤くさせたり、ずいぶんとせわしなく表情を変えている。
一体何を話しこんでいるのか。
スティーブンは興味をそそられていた。
「こんなところで立ち話とは。あの子は目を覚ましたかい?」
「スティーブン。ああ、まだ全快とはいかないようだが、意識はハッキリしている。ギルベルトの様子は」
「お元気そうだったよ。ミス・アメリアが無事見つかったと話をしたら喜んでいらしたよ」
「そうか。ギルベルトも心配していたからな」
「それで、こんなところで何を話しこんでいたんだい?」
「む……むぅ、それは」
クラウスは口ごもってしまった。
どうしたのかとスティーブンが首をひねったところで、ルシアナが助け舟を出した。
「私がご説明しましょうか、ミスタ・クラウス」
スティーブンとクラウスの会話に、ルシアナが口を挟む。
自分の口から、アメリアの暗示の話をするのは勇気がいったのか、クラウスはルシアナの申し出に大きく頷いた。
ルシアナはあたりに人の気配がないことを確認してから、スティーブンに今までの経緯をさらりと説明した。
ルシアナの話を聞いていたスティーブンの顔は徐々に険しくなり、最後には両眉がひっつかんばかりに眉間に皺をよせてしまっていた。
「教会との繋がりが分かったのは儲けものだが……ミス・アメリアの演技の可能性は無いのか? 君に取り入ろうとしているのかもしれない」
スティーブンはまだ全面的にアメリアの事を信用してはいなかった。
──彼女の目的は不明だが、同情をひいてクラウスを取り込もうとしているのかもしれない。
ライブラを狙う連中は数知れない。
その中心であるクラウスを狙う連中なんて、それこそ星の数ほどいる。
「私も話を聞いた時は驚いたが、とても演技とは思えない。彼女は本当に苦しんでいるのだ」
クラウスは必死でスティーブンに目で訴えた。
しかしクラウスは現時点で、多少なりともアメリアに同情を寄せてしまっている。
スティーブンは公平な第三者の目による判断を仰ごうと、ルシアナに視線を移した。