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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第12章 対価



「ミス・アメリア?! 大丈夫かね」

ミス・エステヴェスを伴って病室に駆け込んできたミスタ・クラウスは、えづく私の背を優しくさすってくださった。

こんな見苦しいところをお見せしたくはなかった。
汚いものを見せてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「無理をしなくていい。私達が必ず方法を見つけだす」

「シーツを交換するわね」

ミス・エステヴェスは淡々とした手つきで真新しいシーツと汚れたシーツを交換してくださった。

また浅はかな行動で人に迷惑をかけてしまった。

「申し訳ありません」

「謝る必要はない。君は自分で乗り越えようと挑戦したのだろう。誰もそのことを咎めたりはしない」

「ミスタ・クラウス……」

この方は、本当にどこまで懐の深いお方なのだろうか。

荒唐無稽に思える私の話を聞き入れてくださった上に、ご迷惑をおかけしているというのに全く気になさるそぶりもない。

素晴らしいお方すぎて、眩しすぎるくらい。

「話はミスタ・クラウスから聞いたわ。食事をとらずに済む体にする事も出来るけど……」

ミス・エステヴェスは事も無げにそう仰った。

食事をとらずにすむ体とは、一体。

ミス・エステヴェス自身、不思議な体の持ち主だから、そういった施術を行うことも可能なのかしら。

「けど、そういうものは望んでいないんでしょう。そうなるとその“思い込み”をなんとか取り除くしかないわね」

「思い込み、ですか」

「おそらく、貴方は自分自身に強い暗示をかけてしまっているわ。“対価を払わなければ食事をとれない”という暗示をね」

「……どうすれば、その暗示を解くことが出来ますか?」

「こればかりは、時間をかけて解いていくしかないわ。精神的なことだから。カウンセリングをしていきましょう。それまでは、そうね……道義的な問題をさておけば、一発ヤッちゃえば?って話になるかな」

「ミス・エステヴェス?! それは、あまりにも……!!」

ミス・エステヴェスの直球すぎるお言葉に、ミスタ・クラウスは明らかに動揺されていた。

身も蓋もないお医者様の言葉に、少なからず私も動揺していた。

「分かってるわよ。そういうわけにはいかないわよね。ひとまず今日のところは痛み止めの注射を打っておくわ。食事と水分補給に関しては、点滴をしましょう」


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