第12章 対価
「ミス・アメリア。辛い話をさせてすまなかった。君の事情は理解した。……しかし、だからといって君を、その……」
「抱くことは出来ない、と仰りたいのですね」
あたふたと、ミスタ・クラウスは手と首を振り出した。
どうしてそんなに慌てていらっしゃるのだろう。
するとミスタ・クラウスは懸命に弁解を述べられた。
「決して、君の事が嫌いだとかそういう事ではなくてだな……その、さすがに、か、体の、関係を持つというのは……」
恋人でもなんでもない私をそういう対象としてみるのは難しい事だと、はなから分かっていた事だ。
私とミスタ・クラウスでは年も離れている。
彼からすれば、私はきっと子供にしか見えない。
教会に来ていたお客がおかしかっただけで、成人男性としてはミスタ・クラウスの反応は至極当然のものだろう。
「私がミスタ・クラウスの立場であれば、同じ事を思うと思います。…申し訳ありません。本気で抱いてほしかったわけではないのです。ただ、口に出来ない理由をご説明したくて……」
「あ、ああ。もちろん、分かっている。……しかし、困ったものだな。このままでは君は水さえ口に出来ない。……少し待っていたまえ。何か解決方法があるはずだ」
言ってミスタ・クラウスは病室から出て行かれてしまった。
解決方法なんてあるのだろうか。
兄さん以外の子供達から受け取った時でさえ、戻してしまったのに。
このままミスタ・クラウスが戻るのをただ待っているのも申し訳なく思う。
私自身の問題なのに、全て彼にお任せするのも心苦しい。
物は試しだ。
一口だけ、試してみよう。
もしかしたら、食べられるようになっているかもしれない。
何の確証もない。
だけどやれるだけやってみよう。
どこから湧いてきたのかよく分からない自信で自分を後押しして、私は恐る恐るサンドイッチをひとかじりした。
数度咀嚼して、ゆっくりと喉の奥へ押し込む。
ぐ、と喉が詰まった。
これ以上先に進ませまいと何かがせき止めているみたいだった。
飲み込めない。
ごくりと空気と一緒に飲み込もうとしても、喉はぎゅっと絞まるばかりだ。
「うぇっ……!!」
無理矢理飲み込もうとしたことに体が腹を立てたのだろうか。
唾液にまみれたサンドイッチが口から飛び出した。
手で抑えるのも間に合わず、シーツの上に戻してしまった。