第12章 対価
「……対価。食事をするのに、その、体を差し出す、と……?」
こくりと頷くと、ミスタ・クラウスは唸りながら頭を抱えられた。
「……ミス・アメリア」
「はい」
「君が嘘をついているとは思ってはいない。……だが、その、内容があまりにも……」
額を抑えたまま、ミスタ・クラウスは椅子に座り込んだ。
どんなに言葉を選んでも、性交渉だなんてワードはミスタ・クラウスにとって下品に感じられずにはいられないのだろう。
彼は決してその単語を口になさるおつもりはないらしい。
「ミスタ・クラウス。少し長くなりますが、私の話を聞いていただけますか? 私が何故対価を支払わねば食事が出来ないのか。聞いていただければある程度は納得していただけると思います」
「……ああ、聞こう」
出来るなら、他人に話したくは無かった。
ましてやミスタ・クラウスになんてなおさら。
話してしまえば、私の事を彼がどうお思いになられるか。
そんなの想像しなくたって分かる。
深呼吸をひとつ。
なるだけミスタ・クラウスを視界にいれないようにして、話を続けた。
「…私は、少し前まである教会にいました。そこでは……私を含め、12人の子供達がいました。私達は、生きていくために……体を……売らなければなりませんでした。
お客がつかなければ、食事は与えられることはありません。
飢えて苦しむ子供に対して、牧師様は“食事を必要とするのなら、それなりに対価を支払わねばならないのだ”と仰っていました。
食事をとれず、どんなに衰弱していっても、情けなどひとつもありませんでした。
誰の助けもなく、私達は生きるために、必死に自分達の体を売るしかなかった。
私にとって、何かを口にする事は、行為そのものに等しいのです」
ベッドの横に座るミスタ・クラウスの膝に置かれた手が、ぎゅっとかたく握られている。
小刻みに震えるその拳に、彼がどんな思いで私の話に耳を傾けてくださっていたのか、少し分かった。
ゆっくりと顔を上げた先には、険しいミスタ・クラウスのお顔があった。
「……君は、あの教会にいたのだね」
「教会の事を、ご存知、だったのですか……?」
「君と会って少しして、私のもとに情報が届いたのだ。……子供達を使った売春クラブの話が」
「そう、でしたか」